「生き物として、忘れてはいけないこと」
次代へ贈るメッセージ

コエン・エルカ著

サンマーク出版






数多くのインディアンの文献の中で、心に最も響いた本の中の一冊「鷲の羽衣の女」

書いた方がコエン・エルカさんです。その彼女が次の世代を担う子どもたちへ伝えたい

メッセージを書いた本がこの「生き物として、忘れてはいけないこと」です。子どもたちが

感じる素朴な疑問に対して強く揺るぎない視点で、そして何より実直な飾らない言葉は

胸を打ちます。彼女はアメリカ在住のころ、狼に誘われ彼ら狼と話をし、破ってはいけ

ない約束を交わしました。その約束をコエン・エルカさんはこの日本の地でも忘れず

動物保護などの運動をされているのです。

2008年3月12日 (K.K)


「野楽生れば山あいで狩猟採集生活を目指す野楽生(のらぶ)のあしあと
自然の掟にそった生き方を目指し、必要なものは出来るだけ自分で得る
(恵みを頂く)山の生活を実践しておられる陶芸家の方のブログです。尚、
メルボルン国際芸術賞受賞などを受賞した作品などは「空土窯」にてご
覧になることができます。このブログの中でコエン・エルカさんの言葉
「解っているのは、そのくらいだけ」も紹介されています。


 




「いつから大人になるの?」

「どうしたら強くなれますか?」

「どうして学校に行かなくちゃならないの?」

「いじめをなくす方法はありますか?」

「なぜ働くの?」

「植物も痛みを感じるの?」

「ライオンはどうして肉食なの?」

「どうして年をとるの? お年よりは大切にしなければならないの?」

「すぐに病気を治す方法はありますか?」

「どうして男と女がいるの?」

「外国の人と言葉が違うのはどうして?」

「なんで戦争はなくならないの?」

「どうして生き物は死ぬの?」

「自殺はいけないことなの?」

「死んだらどうなるの?」

「どうして人を殺してはいけないの?」


 


「本書」あとがきにかえて・・・・卒業していく子どもたちへ から引用


翼あるものたちが故郷へ、北へ、飛び立つころ、あなたたちも飛び立つ。あなたたちも、

翼あるものたちと同じ強い志と元気な翼をもつように祈っています。みんなお互いに、

長い、むずかしい旅をつづけることになるから。その翼あるものたちや、ほかのすべて

の生き物たちが精一杯、一生懸命生きているように、あなたたちも生きてほしい。とき

には、あなたたちの一人ひとりが孤独を知る。いつも群れといっしょにはいられない。

そのときこそ、自分で自分にある生まれつきの美しさと強さを感じてほしい。自分の心

といっしょに生きなければならないから。ほかのものではなく、自分が正しいと思うこと

を貫いてほしい。自分がたった今いるところをよく見て、よく聞いて行動すること。その

行動に対して責任をもつこと。その生き方のなかで自分と合っている仲間を見つけられ

れば、とてもうれしいこと。けれど、それもあくまで自分が自分に忠実であってのことで

す。一人になるとき、自分の心が静かであるためです。



もうひとつ、そしてこれが大きいこと。自分の行動は、ほかのすべてのものたち、すべて

の生き物たち、すべての水たち、すべての木と草たち、そう、星たちにも影響を与えて

いることを、一瞬も忘れてはいけない。自分の行動を信じて、そして何が起こっても、

その行動からくる結果に対して責任をとるlべきです。みんなみんな連なっている。あな

たたちが選ぶ行動が、ほかのものたちの生と死と関係していることを忘れないでほし

い。これは忘れやすいことです。大雨のあと、川の流れが速くなるように、洪水になる

ように、いろいろなものが流されるように、二本足のあなたたちも流されやすい。便利

さ、新しさに。鳥たちが光るものを好きなように、二本足たちもピカピカキラキラしている

ものに目も心も奪われやすい。流されやすい。けれど、それが危ない。とてもとてもむず

かしいけれど、ほかのみんなが目を奪われても、流されても、自分の魂の力を使って、

そのキラキラに耐え、流されないようにしてほしい。そうしてこそ、ほかの生き物たちに

もふさわしい兄弟姉妹になれるから。生き物たちは、みんな一人でも強く美しく生きて

いるから。



本書 はじめに コエン・エルカ より引用


“古いものたち”が、いつも私の側にいます。だれもみな、自分一人で存在するのではあり

ません。太古に生きていた祖先と、数限りないものたちのおかげで生まれ、生きています。

私たちみんな、すべてがこの大昔のものたちの結果なのです。



語り伝えによると、私の生まれた家の最初の祖先は、天から降りてきた狼。そのため、家

の風習はとてもシャーマン教的で、忌を重んじる家庭です。さらに、その伝統に、数千年の

内陸、北・中央アジアの民族の移動が重なります。古代エジプトの文化、カバラ(ユダヤ教

の神秘主義のひとつ)、仏教、スーフィー教(イスラム教の神秘主義のひとつ)も加わってい

ます。



歴史を動かすいたずらの女神が、私をアメリカで生まれることにしましたが。血の中に以前

から入っていたシャーマン教的なものが、ネイティブ・アメリカンの文化と縁をつくったのでし

ょう。子どものころから、いくつもの儀式を受けて育った私。自然界の生き物たち(動物・植

物)と隔たりのない世界にいられるのは、そのおかげだと思います。



父の制覇、漢の石碑(敦煌で漢軍と戦った「王」の記念)に刻まれた古い家。それから西の

ほうへ移り、先祖の一人、統葉護可汗(トウヤブグカガン)はあの三蔵法師をもてなしたそ

うです。三蔵法師が唐に帰って、道昭と智通という、薬師寺の二人の日本人僧侶と会いま

した。その二人によって、私の先祖の可汗の名が「三蔵法師伝」で奈良時代の人々に紹介

されました。



日本に来て、すでに三十数回の夏を迎えました。その間、悩み、苦しみ、悔しさに何度もぶ

つかりました。「いったい、なぜここにいるのか」と。しかし、しばらくすると、「いま、ここにい

ること」の必然性もわかるのです。奈良へ初めて行ったとき、なつかしさに感極まりました。

天平の文様や道具なっどは実家で使われているものと同じでした。それに、日本の民話の

なかの自然に対する接し方、石にも生命があるとする信仰、ほかの生き物にも霊力がある

とする考え、物の形を超えたところに大切なことがあるとする信仰などは、私の血の中に伝

わっているのと同じ“うた”です。自分は、ただ、シルクロードの産物なのです。すばらしい

鞍馬寺の世界が、まったく自然にペンジャケント(千二百年前に栄えたシルクロードの都)と

つながり、高野山の天を仰げば古代エジプトの星座が輝いている。いくつもの民族・部族の

名をもっている私のなかに、すべてが曼荼羅になっています。生きている、響き合っている

大曼荼羅。「今、ここに在る」。



私の一方的な考えを、本というかたちで表現してよいものかどうかと、今でも思っています

し、「いつから大人になるの?」「人を殺してはいけないの?」といった問いかけに、意味の

ある答えができているかどうかわかりません。ただ、自分の歴史体験をふまえたうえでしか

答えられないので、せめて、正直に答えたつもりです。



しかし、この本によって、どなたかの、とくに若い人の気持ちが少しでも楽になれば、少しで

もこの世から苦しみがなくなれば、また、いろいろな考え方があることに気がついてくだされ

ば、躊躇しながらも表現したことの意味が、少しはあったのではないかと思っています。



それから、もうひとつ。本を出版するとき悩んだのが、私の名でした。日本で知られているの

は、アメリカン・インディアンの儀式によっていただいた名前、「タシナ・ワンブリ」です。多くの

方がその名で私を呼びますし、新聞にもその名で出ています。その名にたいへん誇りをもっ

ていますが、いくらアメリカン・インディアンとともに運動をやっても、いくら多くの儀式を受けて

も「おまえはインディアンではない」という批判を受けます。先に記したとおり、初めて奈良へ

行ったとき、私、深いなつかしさをおぼえました。それはまさに、この血の中にひっそりと生き

ていたもの。先祖の名ではまったく知られていない私は、日本に在るかぎり、この名でこそ

生きたいと思うようになりました。



日本、いくつもの大陸、祖先の大地で、天竺(インド)で、それより西で出遭った方々一人ひ

とりが、私にとって輝いている星のようです。私に生命をくださっているものたちに合掌しま

す。これらのものの生命を無駄にせず、有意義に生かすためにも、自分の生き方を”お返

し”として気持ちを表したいと思います。



敵・味方に関係なく、すべてのものに感謝します(自分の鋭さを失わずにいられるのは、敵

のおかげ。自分のなんたるかを気づかせてくれるのは、敵なのですから)。



「あの世」と交信する母に感謝します。遊牧民の心をもちつづけた、執筆中に「あの世」へ

帰った父の霊前に、本書を供えたいと思います。ネヤーよ、いつも会っているのは神殿で

すね。根気よく執筆を待ってくださった編集者、友人の高関進さんに御礼申し上げます。



2004年9月 コエン・エルカ




コエン・エルカ

中央アジアの血を引く両親の間に、ニューヨークで生まれる。モンタナ州で祖父とともに

自然界と一体の伝統生活を送りつつ、ネイティブ・アメリカンと交流する。このとき、自然

界に対する見解を身につける。のちに、居留地で抑圧されていたネイティブ・アメリカン

のため、ともに政府に闘いを挑む。ニューヨーク州立大学で生物学、考古学を専攻。

独自の見解ゆえ、生き物を単なるものとして扱う生物学と決別する。二十二歳のとき

来日して以来、日本の文化、伝統、宗教などを探求し続ける。埼玉県在住し、動物保護

のため活動している。








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