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すずめ
猟から帰って、庭の並木道を歩いていた。犬が、前を駆けていく。ふと、犬は
歩みをゆるめて、忍び足になった。行く手に獲物をかぎつけた気配。見ると、
並木道の先に、小すずめが一羽いた。まだくちばしのまわりが黄いろく、頭に
は綿毛が生えている。白樺の並木をひどく揺すぶるところを見れば、小すずめ
は巣から振りおとされて、生えかけのつばさを力なく広げたまま、じっと動け
ずにいるのだ。犬はゆっくりと歩み寄った。と、ふいに近くの木から、胸毛の黒
い親すずめが、犬のすぐ鼻さきへ石つぶてのように飛び下りてきた。そして総
身の羽をふりみだし、けんめいの哀れな声をふりしぼって、白い歯をむく、犬
の口めがけて二度ばかり襲いかかった。親は小すずめを救おうと突進したの
だ。身をもってわが子をかばおうとしたのだ。けれど、その小さな体ははげし
い恐怖におののき、かぼそい声は狂おしく嗄れつきた。親すずめは気を失っ
た。われとわが身を犠牲にした! すずめにとって、犬はどんな巨大な怪物と
見えただろう!それなのに、彼は高い安らかな枝に止まってはいられなかっ
た。意志よりも強いある力が、彼に下りよと迫ったのだ。わがトレゾールは
立ちどまり、じりじりと身を引いた。犬もこの力に打たれたと見える。わたしは
面くらった犬を急いで呼び、心のひきしまる思いで立ち去った。そうだ、笑って
くれるな。わたしは、この勇ましい小鳥を前に、その愛の衝撃を前に、りつぜん
と襟を正したのだ。わたしは考えた。愛は死よりも、死の恐怖よりも強い。 そ
れあればこそ、愛あればこそ、生はもちこたえ、めぐり行く。・・・・・
「散文詩」ツルゲーネフ 岩波書店より引用
ツルゲーネフ(1818-83)が1877年から死の前年にかけて
書き留めたもので、82 の短い散文詩が収められている。

わたしがこのような「散文詩」を自分なりに書きたいと思ったのは、この本を通してだった。
短い文章の中に見事に凝縮された世界観に心ひきつけられた。特に今まで「詩」「散文詩」の
勉強をしたことは無く、書くことへの不安は大きかったが、自分の想いを表現するにはこの散
文詩しかないと感じ、数年前に七つのものを書いた。しかし、まだこのわたしに再び書く力が
残されているのかは、わからない。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1996.12/20
私の家の近くに森林公園があるのだが、そこでは時間が止まり様々な動植物の
息遣いが聞こえてくる。そしてそこに佇む樹に触れると、多くのことに気づかさ
れる。「祈り」はそんな時、産まれた。
1999.10/18