未来をまもる子どもたちへ




シリウスにまつわるドゴン族の神話

「天文学考古学入門」桜井邦朋著 講談社現代新書より引用


もう一つシリウスをめぐる不思議な話がある。それはアフリカのマリに住んでいる

原住民のドゴン族にはシリウスが二重星でその片割れが異常に重い星であるこ

と、その波打ち運動の周期が約50年であることなどが代々伝わっていることだ。

いったい彼らはどうしてそれを知り言い伝えとして残したのか。こんなところにも

宇宙人が古代に地球に飛来して知識を与えたような解釈の生れてくる余地があ

るのである。アフリカ西部にあるマリ共和国のティンブクツ付近に、ドゴン族は現

在住んでいる。ドゴン族に伝わる“シリウス神話”は、私の友人ブレッシャーにより

詳しく調べられている。それによると、ドゴン族のこの神話を最初に聞いたのは、

フランスの人類学者であったグリオールとディーテルランの二人で、1930年代の

ことであったという。彼ら二人は20年間にもわたって、ドゴン族と一緒に生活した

のであった。そのためか、グリオールは住民からの信頼も非常に厚くなり、彼が

死んだときには、住民たちの様式に従った最高の格式で葬られたということであ

る。このような信頼関係にあったためか、土地の尼僧インネクーズ・ドロほかの

4人から、彼らは、ドゴン族のいわば宇宙論を聞く機会をもつことができたのであっ

た。この宇宙論は、私たちの常識からみてきわめて特異なものであった。宇宙論

の中心に、シリウスが位置していたからである。それだけならまだしも、シリウス

は三つの星から成るというのである。主星はシリウスだが、これは私たちのシリウ

スAに当たる。このシリウスを焦点にして、50年周期で楕円軌道を描いてまわる

ディジタリアという名前の伴星がある。もうひとつの伴星には、名前がつけられて

いない。ドゴン族によると、このディジタリアは、天空の中でいちばん小さい星だ

が、いちばん重いものだという。まるで、この星が白色矮星であることを知ってい

るかのようである。ドゴン族の神話には、まだほかにも不思議なことがある。たと

えば、地球は太陽のめぐりを運行しているとか、木星は4つの衛星をもつ、あるい

は、土星にはリングがあるなどというものがある。また、こんな話もある。惑星たち

はすべて、太陽のめぐりをまわっているというのである。石器時代人とあまり変わ

らない生活をしていたドゴン族に、どうしてこんなことがわかったのだろうか。天体

望遠鏡をもたない彼らが、こんな知識をもっているのは、誰かに教えられたからで

はないか。ここで二つの考えが、その説明のためにでてくる。ひとつは、シリウス

星人が地球にやって来て、こうした知識を授けたのだというのである。他のひとつ

はグリオールがでかける以前に、誰かがドゴン族の原住地に既に入りこんだこと

があり、このような知識を彼らにもたらしたのだというものである。前者は、宇宙人

飛来説のひとつの証拠として、しばしば提出されるものだが、奇妙な点がいくつか

ある。たとえば、シリウス星人がやって来たとするなら、きわめて正確な知識を

宇宙についてももっていたはずだから、なぜ、彼らは木星の衛星が4個だとか、

シリウスが三十星だとかという誤ったことを、教えたのだろうかという疑問がでて

くる。そうして、こうした誤りは、かつて人類自身がもっていたものだからである。

これらのことは、宇宙人飛来説には、決定的に不利であるといってよいだろう。こ

んなわけで、二つ目の考えの方が妥当性を帯びてくる。1920年代半ばには、

量子力学が誕生したが、その理論を応用して、白色矮星の構造が正しく解明され

た。この星は極端に小さくて、重い星であることがわかったのである。一方当時に

あっては、シリウスが三十星だとする研究報告も、あちこちから提出されていた。

これらの話題が、その当時、マリに入った人びと、たとえば宣教師を通じてドゴン

族へ伝えられたこともあったにちがいない。もし、このような考え方が妥当だとす

ると、これは異文化間の接触を通じて、文化の伝播が起こることのひとつの証拠

であるといってよいことになる。ドゴン族のもつ不思議なシリウスにまつわる神話

は、文化の伝播が生みだしたものだとするのが、ブレッシャーの考えである。19

20年代は、シリウスBから来る光が赤い方へずれていることが、アダムスによっ

て観測され、アインシュタインの一般相対論の正しいことが実証された時代であっ

た。シリウスの名前は、当時の多くの人びとの耳目によく達していたのである。

こんなことから、ドゴン族に当時接した人びとは、当然このような話題をドゴン族

に伝えたこともあったのであろう。


 







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