「天文考古学入門」

桜井邦朋著 講談社現代新書 より引用






本書 おわりに・・・・天文考古学の目指すもの より抜粋引用

現代人は古代人に比べれば、その知識において驚くほど多くの事を知り得る機会に

恵まれている。にもかかわらず、大部分の人びとは太陽は東から昇り西に沈むといっ

て怪しまない。宇宙に生起している不思議な諸現象のかなりの部分が明らかになっ

たが、逆に現代人は古代人よりもそうしたことに注意を払わなくなった。人工照明の

ために、自然が織りなす天空の交響楽というべき星のまたたきを身近に感じられな

くなってしまったのである。その意味で現代人は古代人より不幸だといった見方もで

きよう。干からびた知識よりも、まず自然の中に自分が包み込まれることを経験する

ことの方がいまでは大切なのだ。あるいは天文考古学は現代人の陥った精神的空虚

さを無意識のうちに取り戻そうとしている行動なのかも知れない。


太陽が信仰や崇拝の対象とされた理由は、太陽の天球上の軌道の変動が、古代人の

生活の上に大きな影響をもたらしたからである。農耕や狩猟が一年ごとにくり返される

ものであり、それらの行動の変化と太陽の位置の年周変化のパターンが同じであるこ

とは早い段階から経験的に気がついていたはずだ。太陽の年変化と季節変化との関係

が明らかにされれば、そこから暦の概念が生まれてくるのは自然の勢いといってよい。

太陽暦のなどの暦の概念が生まれたのが、四季の変化のある地域であったことは決し

て偶然ではない。


文明が発展し、多くの人びとが農耕に従事し、土地に定着した生活を営むようになると、

太陽観測はますます重要度を加えていったにちがいない。太陽観測が国家の最高権力

者である王とそれを取り巻く人びとの手中に納められ、ときに王自らが太陽に擬せられた

のは、それだけ当時の人々の生活にとって太陽が重要であったことを物語っているとい

えよう。


文明の起源と天文学のそれとはほぼ同じ時期と考えてよい。したがって、天文考古学の

研究は人類の文明が誕生した頃の様相を天文学の立場から研究するという側面も持つ

ことになる。ただ、こうした考えが出てきたのはきわめて新しく、すでに19世紀のノーマ

ン・ロッキャーが「天文学の夜明け」においてそれを指摘しているとはいえ、実際に受け

入れられたのは、あのストーンヘンジの謎解きに取り組んだホーキング以後からといって

よい。つまり天文考古学はホーキンズの論文が発表された1963年を出発点といってよ

い。だが時間的には短かいとはいえ、そのわずかの間に天文考古学は大きく成長した。

さいきんでは遺跡が見つかると、天文学的な意味をもつ何らかの証拠がないかどうかが

検討される。そして実際にこの側面からのアプローチが、考古学や古代史の研究に多くの

重要な知見をもたらしているのである。


現在の人類は、かつてなかったような重要な岐路に立たされている。地球全体を一瞬の

うちに破壊しつくせるほどの核兵器を持ちながら、未来へ向かって生存可能な道を求めて

いるのが実情だ。しかも未来への見通しは決して明るいとばかりはいい切れない。こんな

時代には自分たちの祖先がどんなことを考え、何をしてきたか過去を映し出してみることも

未来への可能性を探る意味で必要だろう。こう考えてくると、天文考古学は皮肉にも“良い

時代”に誕生したといえるのかも知れないのである。


天文考古学について熱心に研究がすすめられ資料が蓄積されるにつれて、まったく異なった

視点からの問題を解決しようとする人びとも現われている。それは古代人の得た天文学的知識

あるいは天体観測の遺物を、地球外の知的生命がもたらしたものだとする考え方である。


たしかに現代の天文学や宇宙物理学あるいは分子生物学の研究結果から、地球外に知的

生命が存在することは予測され得るものである。これら生命が、地球上の文明の誕生時に

宇宙の何処からか飛来し、地球人類の文明発展の導因となる知識を授けた・・・・という、

“宇宙人飛来説”はにわかに信じ難いが、否定するにしても確固たる根拠が必要であろう。

天文考古学の発展はこの分野における検証にも大きな力を発揮すると期待されている。


現代の天文学は、素粒子や原子核に関する物理学の進展にともなって、旧来の天文学とは

一変した内容を持つものになってしまった。その呼称すら宇宙物理学というふうに、ちがった

呼ばれ方をされる。この学問の急速な発展は、これまでの宇宙論の内容をすっかり書き換え

てしまっているのである。天文考古学は、宇宙研究の最前線に立つ天文学の発祥の原点が

どこにあったかを教えてくれるであろう。そして古代人が考えた宇宙観(それは人生観に通じ

る)、宇宙論が現代のそれと比較対照されるとき、人類と宇宙とのつながりの歴史的変遷が

私たちの前に鮮やかに浮かび上がってくることであろう。


 
 


目次

まえがき


1 天文考古学への道

新しい学問の誕生

巨石文明の謎

「天文学の夜明け」

古代人の残したもの

精密な天文観測


2 太陽・星の動きを測る

太陽の役割

天球座標

日の出と日没の方角

複雑な月の運行

年の長さを測る

二八宿

一年の長さの補正

日食の条件

サロスの周期性

大切な星シリウス


3 ストーンヘンジと天文学の夜明け

ソールスベリー平原の巨石群

天文台だったストーンヘンジ

建造法の謎

注目した人びと

新石器時代の計算機

偶然ではない建造位置


4 太陽と古代エジプト文明

古代エジプト人の天文知識

太陽神の崇拝

イシスとオシリス

星時計と太陽暦

エジプト人の季節

シリウスの固有運動

シリウスは赤かった

ドゴン族の神話


5 マヤ、インカ文明の宇宙観

太陽と黄金の文明

マヤ文明の絵文書=コーデックス

太陽の色

傾いた“死の道”

マイヤーが消えた

地磁気との関係

不思議な暦

独自の計算方法

カラコルの天文台

インカの天文台

太陽信仰といけにえ

ナスカの地上絵


6 アメリカ・インディアンと超新星

カニ星雲

インディアンの残したスケッチ

超新星とは何か

パルサー

三日月と超新星

手形の意味するもの

アメリカ・インディアンの神殿

メドスン・ホィール


7 古代日本の天文観測

日本の巨石文化

酒船石の秘密

立地条件の推測

神話が示唆する太陽崇拝


おわりに・・・・天文考古学の目指すもの





2012年3月27日、フェイスブック(http://www.facebook.com/aritearu)に投稿した記事です。


1週間後の4月3日午後7時の星空

中央に星がごちゃごちゃ集まっている所がプレアデス星団(すばる)で、金星がその近くに大接近します。でも

都会やその近郊では、すばるをはっきりと肉眼で見るのは厳しいかも知れません。双眼鏡ですと同じ視野に

金星とすばるが輝いて見えると思います。



地上の風景はストーンヘンジで設定してみました。画像下のオプションでフルスクリーンにすると大きく見えます。



星図の右に「悪魔の星」と書きましたが、「見ると怖いぞー、見ると大変なことが起きるぞー、見るんじゃないぞー」

と脅かすつもりではありません。この星には逆に美しい発見物語があります。



「悪魔の星」アルゴルをアラビア人は「最も不幸で危険な星」と呼んでいました。それはこの星が明るさを変える星

だったからです。実はこのアルゴルの周りを暗い星が回っており、暗い星がアルゴルの前を通過するときに暗く

なることを最初に提案したのは、イギリスの若者グッドリックでした。



グッドリックは、耳が聞こえず口もきけないという不自由な体でしたが1782年から翌年にかけてアルゴルの変光を

追いつづけたのです。1786年、その功績によりロンドンの王立協会会員に選出されますが、その4日後にグッド

リックは肺炎により22歳の若さで他界してしまいます。美しい話と同時に悲しい物語かも知れません。



☆☆☆☆



現代人は古代人に比べれば、その知識において驚くほど多くの事を知り得る機会に恵まれている。



にもかかわらず、大部分の人びとは太陽は東から昇り西に沈むといって怪しまない。



宇宙に生起している不思議な諸現象のかなりの部分が明らかになったが、逆に現代人は古代人よりもそう

したことに注意を払わなくなった。



人工照明のために、自然が織りなす天空の交響楽というべき星のまたたきを身近に感じられなくなってし

まったのである。



その意味で現代人は古代人より不幸だといった見方もできよう。



干からびた知識よりも、まず自然の中に自分が包み込まれることを経験することの方がいまでは大切なのだ。



あるいは天文考古学は現代人の陥った精神的空虚さを無意識のうちに取り戻そうとしている行動なのかも

知れない。



「天文考古学入門」桜井邦朋著より引用



☆☆☆☆



(K.K)



 







双眼鏡で見る春の星空 双眼鏡で見る夏の星空

双眼鏡で見る秋の星空 双眼鏡で見る冬の星空

天体観測に適した小・中口径の双眼鏡

天体観測に適した大口径の双眼鏡

(映し出されるまで時間がかかる場合があります)

いい双眼鏡とはどんなもの

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