
「筑豊のこどもたち」
土門拳著 築地書館より
親の代から炭坑に入り、炭坑に生きて来た人たちは、自分の働く場所であり生きる
場所であるこの炭坑を奪われて、疲労した身体のまま放り出されたのである。失業
した炭鉱労働者の数は福岡県だけを見ても5万人をこえる。私は昭和27、28年
の不況の後に遠賀川流域の中小炭坑、三池炭坑を訪ね、多くの人たちと語り合っ
たが、その時期に於ける、閉山された炭鉱状況も私が考えることの出来なかった
ほどのものだった。私を圧倒した印象は、何よりも、やせはてて内から伸びる力を
失い、皮膚が肉をはなれて存在するかと見えるような、子供たちの印象だったが、
子供たちの父親は絶望にとりつかれて子供と妻や母親をすててどこかへ姿を消し
ていたのである。このような子供を取巻いているきびしい現実は土門拳のカメラに
よってとらえられ、私たちを先ずその現実そのもののなかに導いて行く。子供の
笑い、遊び、勉強、けんか、など、子供たちのすぐ足下にひらいている大きな黒
い穴がいまの炭坑である。・・・・・・・1977年6月8日 野間宏(本書より)