
「変貌する大地」
インディアンと植民者の環境史
ウィリアム・クロノン著 佐野敏行 藤田真理子訳 勁草書房 より引用
私が本書で試みようとしたことは、植民地時代におけるニューイングランドの生態の
歴史について書くことです。ここでいう歴史とは、その学問的境界が、人間の制度---
経済、階級システム、ジェンダー・システム、政治組織、文化的儀礼---を超えて、こう
した制度に文脈(コンテクスト)を与える自然生態にまで拡張された歴史のことです。
異なる人々はそれぞれに、取りまく環境とのかかわり合いを選択します。こうした選択
は、人間の共同体の中だけでなく、より大きな生態系の中でも、さまざまに行われて
いきます。こうした諸関係についての歴史を書くには、普通の歴史的分析では、存在
しても周辺的としかみなされない人間以外の出演者たちを、舞台中央に連れ出さな
ければなりません。それで、本書の大部分は、マツの木、ブタ、ビーヴァー、土壌、
トウモロコシ畑、そして流水域の森林などといったニューイングランドの景観要素の
変化する様相を、綿密に検討することに費やされているのです。私の主題は次のよう
に単純なことです。つまり、ニューイングランドにおけるインディアン優位からヨーロッパ
人優位への移行は、必然的に、こうした人々の生活の仕方に重大な変化が生じること
に伴った---歴史研究者によく知られている---のだが、それはまた、この地域の動植
物群集の根本的な再編成をも含んでいた---歴史家によく知られていない---という
ことです。私たちは、ヨーロッパ人の侵略の結果として生じた、文化面での変化---
歴史家がときに「フロンティア過程」と呼ぶもの---に、生態面での変化を付け加えな
ければならないのです。あらゆることが複雑な諸関係で結ばれていたので、こうした
諸関係を適切に理解するには、歴史研究者と生態学者双方の手法が必要なのです。
歴史を書く上での生態分析の強みは、そうしなければ人の目に触れないままにされ
てしまうような長期的変化や過程を明らかにする力をもっていることにあります。この
ことは、私がここで行うような生産様式の歴史的変化を詳しく検討するのに、とくに役立
つのです。こうしたアプローチをとると、ある意味で、経済は生態の下位構成体になり
ます。こうした分析の長所を最大限に活用しようと、私は次のように本書を構成しまし
た。まず、19世紀初めに存在していたニューイングランドの生態系を植民地時代以前
のものと対照することにします。そして、植民地時代以前のインディアン共同体の生態
関係を、到来し始めていたヨーロッパ人のものと比較します。とくに、双方の集団が
どのように財産(プロパティ)を所有すること(そして、生態系に境界を設けること)に
ついて考えていたかという点から比較します。それから、こうした対照点で議論に
枠組みを与えながら、ヨーロッパ人到来後に引き続いて起きた生態変化について
述べていくことにします。
(本書 はじめに より引用)
目次
はじめに
日本語版のための序
第一部 昔を顧みる
1 ウォールデンからの眺め
第二部 植民地時代のニューイングランドの生態変容
2 景観とパッチワーク
3 欠乏と豊饒の季節
4 土地を区切る
5 狩猟にまつわる有用品(コモディティズ)
6 森を取り除く
7 畑と柵の世界
第三部 変化の収穫
8 そのウィルダネスは商業中心地になるだろう
注
参考文献に関する小論
訳者あとがき
索引
