「アメリカン・インディアンの歌」

ジョージ・W・クローニン編 渡辺信二訳

松柏社








ここに翻訳した「アメリカン・インディアンの歌」は、「消えゆく民族」というイデオロギーが

一般化していた1918年に初版が出版されたが、その出版は、ひとつの出来事とみなされた。

なぜなら、これによって、インディアンの詩の関心が一気に、かつ、広く一般に喚起され、ひい

ては、詩人たちの興味、および、若い研究者の注目がインディアン文化・文学へ向かうためで

ある。それまで、インディアンの文化への関心は、19世紀前半のヘンリー・スクールクラフトよ

り引き継がれてきたが、インディアンの詩は、おもに学術報告書か研究書でしか読めなかっ

た。本書の初版は、アメリカン・インディアンの詩を網羅的に集めた最初の権威ある、一般読

者向けの作品集であると高く評価された。原書へ歌を提供したフランツ・ボアズ、ダニエル・G・

ブリントン、ナタリー・カーティス、フランシス・デンスモア、アリス・フレッチャー、ワシントン・マ

シューズ、フランク・ラッセルなどは、インディアンの言語に精通した学徒であるだけでなく、そ

れぞれのインディアンの実際の生活を考察するなかで、歌を採集し翻訳しており、今でも、

インディアンの詩選集を出版する際の出典となっている。もともと、インディアン文学は口承

文学なので、だれが語ったのか分からないものが多い。特にすばらしい話や歌は、さまざま

な人がさまざまな場で即興的に変化を加えながら、語り継ぎ、歌い継いできたから、結果、

さまざまな形で伝わることになる。この際に、原作者や修正者の名は、問題にならない。これ

が、口承文学の匿名性および可変性である。原書は、この口承文学の伝統を引き継ごうとし

ている。たとえば、総編集者クローニンの名まえは、表紙に現れるだけで、他の箇所にはまっ

たく出てこない。初版の謝辞を書いた者も、不明のままである。また、作者や歌い手が分かっ

ていても、言及されないか、タイトルに組みこまれている。また歌の収録者・翻訳者の名まえも、

目次に記すだけである。原書は注も省く。インディアンの歌は、いつどこでだれを聞き手として、

どういう目的で歌われるのかが、重要であったが、そうした説明を含めて、注をいっさい省くこ

とで、むしろ、時代を超える文学として扱おうとしているように思える。

本書「あとがきにかえて」より引用







インディアンの神話・預言・叡智を集めた文献に戻る