
「アメリカ・インディアン史 第3版」
W・T・ヘーガン著
西村頼男・野田研一・島川雅史訳 北海道大学図書刊行会 より引用

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本書より引用
込んだという特殊な事実に基づいて説明するのが普通である。インディアンが思い 起こされるのは、その存在によってこの大陸が全くの空ではなかったことを証明す る人びとがいたことに気づいた後のことである。インディアンはしばしば、厳しい気 候、野獣、未知のはるかな道程などとともに、荒野で待ち受けているかもしれない 災難の一つとして考えられた。私たちは彼らを、不用意な旅行者を連れ去り、幌馬 車を襲い、カウボーイに挑みかかる者たちとして記憶するように教え込まれている。 かくて、インディアンとはアメリカの進歩という円満に回る歯車に食い込んだ砂粒以 外の何ものでもないかに思われてくる。インディアン自身の側から見れば、アメリカ 合衆国の興隆は全く異なる様相を呈していた。それは、長い歴史と多様な形態を持 つ一定の文化圏に対する、遠方からやってきた統率のとれた侵略者による迫害と 征服と破壊とを意味した。私たちは、アメリカの歴史は被圧迫民族のさまざまな屈従 のうえに成立した他の諸帝国とは対照的なものだと考えようとする。だが、現在の 旧植民地諸国民の眼から見れば、アメリカ・インディアンの運命は、アジアとアフリカ で異なる役者によって演じられた劇の北アメリカ版にすぎないと思えるだろう。本書 においてヘーガン氏は、賛嘆すべき明快さと簡潔さで、文化衝突の物語を語ってい る。氏が焦点を当てるのは、インディアンがアメリカ文明の進歩をいかに妨げたかで はなく、対抗し合う力が不均等であったためにより一層(より少なく、ではない)酷い ことになったある悲劇的な出会いについてである。氏の主要な関心は、多種多様な インディアン社会固有の歴史というよりは、むしろインディアンと勃興しつつある合衆 国との諸関係に注がれる。この出会いのさまざまな段階をたどり、優勢な新米のアメ リカ人たちが最も古くからの居住者たちに対して取った態度の推移を示しつつ、ヘー ガン氏は私たちに、アメリカの政治と倫理の歴史に関する試金石を与える。なじみ深 いアメリカ史上の挿話が全く違った表情を見せる。それは、私たちの時代に解決を 迫られているヨーロッパ諸国民と「発展途上」諸国との劇的出会いの先触れとなった のであった。ヘーガン氏は、アメリカ文化の各局面を私たちの過去のすべてに開か れた窓とすることを意図する「シカゴ大学アメリカ文明史叢書」に、インディアン=白人 関係をめぐる物語をアメリカ史の主流と関連づけることによって、新たな意義を与えて くれた。本叢書は二種類に分けられている。アメリカ史のはじまりから現代にいたる 一貫した叙述を行うクロノロジカル・グループとアメリカ生活の多様かつ意味深い諸 局面を扱うトピカル・グループである。本書はトピカル・グループの一書である。
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編者による序文 日本語版への序文
第一章 植民地時代 第二章 敵と味方 1776〜1816 第三章 強制移住 1816〜1850 第四章 最後の反撃 1840〜1876 第五章 文化変容の強制 第六章 インディアン・ニューディールとその後 第七章 国家内の依存国家
訳注 訳者あとがき インディアン関係年表 邦語文献 文献解題 人名・事項索引
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