「アメリカ先住民アリゾナ・フェニックス・インディアン学校」

ロバート・A・トレナートJr著

斎藤省三訳 明石書店






本書「まえがき」より引用


全寮制のフェニックス・インディアン学校は職業教育を中心として、先住民の

子供を白人社会に同化させることを目的とした学校である。はじめの40年間、

主な目標はインディアンの若い子供を昔ながらの生活から切り離し、彼らを伝

統文化から遮断し、彼らに白人中産階級の価値観を植え込むことであった。

「同化」と一言で言っても、その意味するところは1890年から1930年にわ

たって繰り返し変わっている。絶えず変更される連邦政府の教育政策のお

かげで学校の目標がその時々によって変わってしまう。そういう意味では

学校運営も国家の動向と基本方針に左右されるものである。本書の基底

にあるものは変化してやまない同化教育の方針と、その方針が具体的に

フェニックス・インディアン学校にどのように適用されていったかの実態を

掘り下げ、報告することである。



本書 解説 より抜粋引用


保留地への禁固という政策と同時に、子供に対して同化政策を取るようになった。

同化政策の尖兵となったのが全寮制インディアン学校であった。数多く設けられた

インディアン学校のうち早い時期に設立され、他校の模範となるような充実した設備・

規模など、典型的なインディアン学校が全米でいくつかあった。フェニックス・インディ

アン学校はその一つである。同化政策とは少数異民族であるインディアンをその「野

蛮な」生活状態から白人同様に文明化された生活状態に引き上げようとする保護者

的な政策である。一見、慈悲に満ちた、人道的な、文化的な政策のようである。日本

が朝鮮半島や台湾や南洋諸島でおこなった政策に似通った政策と言えよう。しかし

本書に明らかにされているように、「同化」「文明化」がどのような「意図」「善意」「慈

愛」「保護」のもとで行なわれたとしても、その結果は悲惨なものであった。この場合

の悲惨とは生活が惨めだとか、食うや食わずとかの意味とは限らない。一言で言え

ば「文化破壊」である。文化破壊は母語の喪失・消滅・親子関係の断絶、生活習慣

の破壊・断絶、宗教の破壊、など聞くだに恐ろしい文化破壊が見られる。「同化教育」

や「文明化教育」のもたらした破壊の様子は本書に細かく記されている。母語の喪失

は第一に挙げられるべきものであろう。約10年間学校に在学したものが故郷へ帰っ

てみると、両親、親戚、ご近所の人達と話をすることができなくなっている場合が多

かった。親子断絶の最たるものであろう。


 


目次

まえがき


序章 武器は教科書に道を譲る

第二章 砂漠の中のオアシス

第三章 注目の時代

第四章 他民族学校

第五章 変革の時代における安定

第六章 生徒の生活

第七章 強迫下の教育

第八章 一つの時代の終わり

第九章 結論と終章


解説

訳者あとがき

原注

参考文献

索引








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