「アメリカの空へ」

大探検を助けた少女、サカジャウェア

ケネス・トーマスマ著

西江雅之監修 加原奈穂子訳 出窓社






アメリカ史上もっとも重要な女性6人に数えられるサカジャウェア。この少女が探検後に

歩んだ道、そしてその死に関しては多くの説がありますが、この献身的なそして偉大な

功績を残した少女がどのような道を辿ったのか、今となっては霧に包まれています。た

だ、彼女がその後の人生を幸福に送ったとは言えなくても、私の心のなかには、多くの

インディアンの勇者と同じようにサカジャウェアが遺した献身的な崇高さ、そしてそれを

尊敬のまなざしで見守った二人の隊長の姿は生き続けてゆくことでしょう。

2000年5月18日 (K.K)

 




1805年春、16歳の少女は、生まれたばかりの赤ん坊を背負い、史上名高いルイスと

クラーク探検隊の一員として、壮大な旅に出発しました。それは、ミズーリ川の源流を

遡り、ロッキー山脈を越え、太平洋へと向かう21ヶ月にも及ぶ苦難の旅でした。そして

この大探検の成功に、サカジャウェアは計り知れない貢献をしたのです。アメリカ合衆

国は、少女の知恵と勇気をたたえ、2000年発行の新1ドルコインの肖像としました。


赤ん坊を背負ったネイティブ・アメリカンの少女が、1ドルコインとなってアメリカ史に甦る

と決まった時、著者と私は抱き合って喜んだ。はるか昔にベーリング海峡を渡り広大な

大地に独自の文化を発展させたモンゴロイドの子孫と、大西洋を自由を求めて渡り独立

を勝ちとった人々が、お互いの文化と知恵を尊重しながら、新しい太平洋時代を開いた

偉業は、混迷と迷走を続ける現代に人間の叡智と献身の美しさを圧倒的に感じさせてく

れる。この本は、美わしのサカジャウェアに導かれ、ルイス=クラーク探検隊の人たち

が太平洋に沈む夕日に感動しているその場に、私たちを立ちあわせてくれる。

浜野安宏(本書帯文より)








読者のみなさんへ

加原奈穂子


サカジャウェア。わたしがこの不思議な響きの少女に出会ったのは、数年前、アメリカのオレゴン州

にあるルイス・アンド・クラーク大学で勉強していたときのことでした。大学の名前となったルイスとク

ラークは、アメリカ史に残る大探検の隊長たちでした。そして、探検の旅で大きな貢献をしたネイティ

ブ・アメリカンの少女が、この本の主人公サカジャウェアだったのです。彼らが活躍した1800年代

の初めといえば、日本はまだ江戸時代で、外国との関係を持つことを避けて鎖国をしていました。

アメリカ合衆国は、北アメリカ大陸の東側の一部でしかなく、大陸の内陸や西側の沿岸部は、東部

の人びとにとっては無縁の土地でした。西の太平洋側では、南からスペインが、北からはアラスカ

を経由してロシアが、そして内陸部ではフランスとイギリスが、領土の拡大をねらって、にらみ合っ

ていました。ルイスとクラーク探検隊は、そうした情勢の中で、太平洋に到達するルートをいち早く

発見するという重大な任務をおって出発したのです。この本の主人公サカジャウェアは、伝説の中

での悲劇の王女ポカホンタスと同じように、アメリカでは最も有名なネイティブ・アメリカンの女性で

す。サカジャウェアは、クラーク隊長の奴隷であった黒人のヨークと並んで、非公式の隊員としてこ

の探検に参加しました。自ら望んだわけではなく、通訳兼ガイドとして雇われた夫のシャルボノーに

ついて行ったのですが、夫に勝るほどの働きをして探検隊を大いに支えたのでした。当時16歳の

サカジャウェアは、生まれて間もない赤ん坊を背負って、探検隊の兵士たちと共に長く苦しい旅を

耐えぬきました。探検隊が踏破した往復の総距離は、約一万キロに及ぶと言われています。地球

の円周がおよそ四万キロですから、それを考えれば、探検規模がどれほどのものだったかは想像

できることでしょう。探検が終わってから、サカジャウェアは伝説のヒロインとして、詩や小説に描

かれ、絵や銅像のモデルとなり、地名となって、アメリカの人びとの間で親しまれてきました。しか

し、その生涯については多くが謎のままです。隊長を務めたルイスとクラークが、探検の後に辿っ

た運命は対照的なものでした。大探検を成し遂げた彼らは大変な称賛をもって迎えられました。

ルイスには、ルイジアナ領土の長官という職が与えられました。しかし、彼は政治の世界には向い

ていなかったうえに、婚約者に去られ、不動産への投資に失敗し金銭的にも困るようになってしま

います。やがて心と体の両方を病んだルイスは、探検が終わってからわずか三年でこの世を去

りました。その死は自殺とされていますが、多くの問題が残されています。まだ三十三歳の若さで

した。一方、クラークのその後は幸せなものだったと言えるでしょう。彼はルイジアナ領土で上級

軍人としての職と領地を与えられ、政府のインディアン関係の職場で活躍しました。家庭生活も

恵まれたものだったようです。この本では、サカジャウェアを中心に、隊長たちが記した日記を

辿っていくという形が採られています。その中では、ネイティブ・アメリカンの人びととの出会いや

豊かで厳しい自然などを通して、アメリカの人びとの心の故郷が描き出されています。遥かなア

メリカの空の下で語り継がれてきたサカジャウェアの物語は、アメリカの新しい一面をきっと皆さ

んに伝えてくれることでしょう。


 
 

目次

読者のみなさんへ

レミ・ショショニ族からのメッセージ

プロローグ

舞台設定


探検日誌

フォート・マンダンでの出会い

ミズーリ川の上流へ

病とのたたかい

グレートフォールズを越えて

奇跡の再会

海が見える

フォート・クラトソップでの冬ごもり

ロッキー山脈を越えて東へ

再びミズーリ川へ


エピローグ

解説・・・・西江雅之









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