「リムーヴァルズ 先住民と十九世紀アメリカ作家たち」

ルーシー・マドックス著

丹波隆昭 監訳 開文社出版 より引用







監訳者あとがき より引用


強制移住法案をめぐっては、もちろん、上下両院で激しい議論が交わされた。事実、

人道主義的立場から法案に異を唱える者も少なくなかった。しかし、先住民の権利と

いう問題に関しては、歴史的経緯として、それまでも白人側の遵法上の「建前」と、

白人優先で展開した慣例に基づく「本音」との分裂があった。司法を預かる最高裁

長官が「建前」を重んじて先住民に同情的な裁定を下しても、行政の長たる大統領

はこの問題に「本音」で臨んだのである。1830年5月の議決は、僅差ながら法案

賛成が上回り、世論が大統領を支持する形となった。そしていよいよ権限を与えら

れた政府は強制移住の実施に乗り出す。先住民たちは住み慣れた地を無理やり

追い立てられ、西方へ「涙の径」を辿ってゆくことになるのである。人道主義を白人

優先主義が押さえ込んだ形で最終的な決着を見た強制移住問題に対して、当時の

アメリカ作家たちはどういう態度を取ったのか。特に、強制移住支持に回った世論

を背景とする白人読者社会を睨んで彼らがその問題意識をいかなる形で表現した

のか。本書はそれを論じる。我が国でもお馴染みのメルヴィル、ホーソーン、ソロー、

フラー、パークマン、そして対照的にあまりお馴染みでないチャイルドやセジウィック

などの作品テキストを、著者マドックスは「当時の文脈に据えて」検討し、問題に対

する作家の意識や作品に秘められた意味を明らかにしていく。たとえばメルヴィル

は、先住民など形の上ではまったく登場しない「バートルビー」の主人公の運命に、

かたくなに文明化を拒否し続け、結局は強制退去、そして死という運命を辿りゆく

先住民の運命を重ね合わせている、と著者は指摘する。「先住民強制移住」という

固有の視点から、丹念に個々の作家を検討したマドックスのこの著書は、各作家に

おけるこの問題への態度、対応を明らかにするとともに、テキストの新たな読み方

をも十分な説得力をもって示してくれるものだろう。


 


目次

謝辞

序章

第一章 文明か絶滅か

第二章 書くことと沈黙と・・・・メルヴィル

第三章 家族の救済・・・・ホーソーン、チャイルド、セジウィック

第四章 出発点・・・・フラー、ソロー、パークマン

むすび

原著注

監訳者あとがき

索引








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