Edward S. Curtis's North American Indian (American Memory, Library of Congress)


アメリカ・インディアンの言葉




祈り(レッド・フォックス スー族首長)

「白い征服者との闘い アメリカ・インディアン 酋長レッド・フォックスの回想」

秋山一夫訳 サイマル出版会 1971年12月20日発行より引用




おお、偉大な精霊よ!

私があなたの領域に立ち入ることをお許しください。多分私がまだ私の限られた知能を

もってして人生の謎と取り組むなどということを差し控えるべきなのでしょう。しかし、私は

すでに百年を生きて、白人がこの大陸を征服するさまを目撃してまいりました。この大陸

は1492年の春には、あの幻の楽土アトランティス島のように白人世界から隔てられて

あったのです。それはまだ白人が、水の上に船をすすめるために風を使い、陸の上では

歩くか馬に乗るかしていたころのことです。白人が望遠鏡をあたえられ、重力の法則や

原子の神秘についても教えられる以前のことです。



精霊よ、あなたの領域に立ち入るについて私が疑問に思うのは、はたして白人はいま

まであなたからあたえられたさまざまな贈りものを正しい知恵をもって用いてきたのであ

ろうか、それとも彼は、それを単に彼が「進歩」と呼ぶものを達成する方便としてのみ用

いてきたのであろうか、ということです。もし、幸福こそ唯一の善であるとするなら、白人

はさまざまな利便やぜいたく品を所持することによってはまだそれを見出していません。

彼は昔荒野で馬に乗っていたころのほうが、ジェット機に乗って空をとびまわる現在より

も心が充ち足りていたのです。彼は世界を征服しました。しかし自分自身を征服してい

ないのです。



偉大な精霊よ、あなたはあなたがお創りになった土地の残りのなかからこの新しい大陸

を白人にお示しになりましたが、この大陸はいまや彼の貪欲な性質によって略奪されて

しまっているのです。彼はあなたの山々から金や銀を掘り出し、彼自らが呼吸している

酸素をつくりだすのに役立っている林や森を切り倒し、あなたの土地にはさし迫ったさま

ざまな災厄のもとに住んでいるいる人びとを充満させました。かつては清らかであった

流れも彼白人の廃物を海へと運ぶおおいのない下水にすぎなくなりました。そして、河口

周辺の幼稚園に群がり集まる海の生物たちは、内陸から流れてきた殺虫剤が原因で死

に絶えてゆきます。彼はいま沈黙しつつある春に直面しているのです。なぜなら、鳥たち

もまた、かつての原始的荒野に取ってかわった有毒な環境のなかで、消え去りつつある

からです。鳥たちは油にまみれ、波に運ばれて岸に漂着し、そしてその卵は大地を大気

をそして水を汚染する死の化学薬品によって、生殖力を失ってしまっているのです。



いまや真理に悲観主義が、予言に恐怖があるのです。あなたのお創りになったこの

世界にいま起こりつつあることは、おお偉大なる精霊よ、多分一つの陰謀なのでしょう。

人類の運命を予示する最後の災厄なのでありましょう。それとも、このように考えるのは、

いまやあますところなく完成してしまったこの世界に住む、もはや若くはない私という男の

苦い思いのゆえなのでもありましょうか。もし私たちの社会が、あのノーベル賞受賞生化

学のセント=ジェルジの信じているように、死に向かっているのだとするなら、この地上

における人類の生命の終結は避けられない運命です。しかし、この私は、人間には人間

自らが培った悪を克服するだけの知覚力と意志の力とが備わっているのだ、という希望

にしっかり取りすがっているのです。もし人間にその欲望さえあれば、人間は世界をつく

り直すことのできる技術をもっているはずなのです。体制に反抗する若者たちが無益な

自己宣伝癖にあがくことをやめて、その活力を、生存競争にとって肝要な目標に向ける

なら、それが可能かもしれないのです。



おお偉大な精霊よ、過去の知恵と、そして挫折の荒野に自己を見失う時間の無益とを、

白人の子どもたちにお教えてください。彼らに、真実と真実の友である諸徳とを崇めるよ

う、おすすめください。彼らに、大自然の単純さと驚異とを鑑賞する方法を、そして、愚か

しい残虐行為から自然の生命を守ることの必要性を、お教えください。そして、彼らの子

どもたちがやがて成人するとき、彼らの先祖たちを告発している闘争や戦争の破壊的な

無益へも、彼らの眼を開いてやってください。彼らの環境を傷つけてしまっているさまざま

な毒から、大気と水と土地とを開放させる処方を、彼らにおあたえください。



精霊よ、あなたはあなたの創造の手から、私たちインディアンの先祖たちに、二つの大洋

にかこまれたエデンの園をくださいました。私たちの先祖は彼らの眼と耳と思索とをもって、

あなたを崇めました。花や草の葉が彼らに語りかけ、木々のあいだを渡る風のバイオリン

の線のうえに、あなたのさまざまな歌が聞かれました。あなたによってこの大陸に置かれた

インディアンは、いま彼らの過去を嘆いています。彼らには、しかし、道徳と規律との強固

な背景があります。彼らを白人につくりかえようとした者たちをお許しください。そして、彼ら

インディアンの富である彼らの遺産を博物館のなかに葬ることなく、忘却に委ねることもな

く、いつまでも生気に満ちた力としてこの世の中に保ちお守りください。

これが私の祈りなのです!


 







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