
Edward S. Curtis's North American Indian (American Memory, Library of Congress)
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家族は彼の寝椅子にぴったりと寄り添った。しかし頭のほうはまだはっきりしていて、 周囲の人々の愛をひしひしと感じ取っている様子だった。クロウフットがこちら側での 命を終え、アーチをくぐって向こう側へ渡ろうとしているまさにそのとき、家の外では木 々が芽吹き、花が咲きはじめて、春の息吹が満ちあふれていた。まるで彼の死が、地 上に再生をもたらすかのように。クロウフットはカナダのブラックフット族のリーダーだっ た。若いとき、五万平方マイルに及ぶ豊かで肥沃な土地をカナダ政府に譲り渡したの も、ほかならぬ彼だった。クロウフットの行為はあくまでも善意から出たもので、彼に はブラックフット族が新しい深刻な変化の波に直面しているのがわかっていた。だか らその見返りとしてカナダ政府から、ブラックフット族がまがりなりにも暮らしていける 代替地をもらったのだ。しかし、彼が死の床についていたとき、部族の人々もまた飢 えに直面していた。白人のハンターたちがかってに部族の土地に入ってきて、バッフ ァローの群れを絶滅に追いやってしまったからだ。ブラックフットの人々にとってバッフ ァローは、単に食料を供給してくれるだけでなく、住居も、着る物も、燃料さえも与えて くれる動物だった。また、信仰とも深く結びついていて、バッファローの死は、すなわち 部族の死でもあった。クロウフットの死を目の前にして、それまでずっと看病してきた 長女がこう尋ねた。「人生って、なんなんでしょうね?」 人々は彼がてっきり、死や 苦しみについて語るのだろうと思っていた。あるいは、そのとき彼は部族の人々が ともに胸に抱いていた悲しみについて語るのかと思っていた。もしくは、リーダーと しての彼の判断が誤っていたという悔いや、それまで背負ってきた苦悩などについ て話すのではないかと。しかし、クロウフットはしばらく考えていたが、やがて老いた 目を思い出に輝かせ、かすかに微笑みながら、娘のほうを向いて言った。
人生とは、闇を照らす一瞬の蛍の光 冬の寒さに浮かぶバッファローの白い息 草原を横切り、夕日の中に消えていく小さな影。
「風のささやきを聴け」より引用
我々は、母なる大地にミアヘイユン---全宇宙---を映す現身(うつしみ) この地上に経験するためにやってきた。 我々は、果てしなくめぐる季節の中で、ちらと閃(ひらめ)く手の一振り。 太陽の幾百万の火に束の間だけ身をさらし、 その輝きを映す、すべてのものを語らう。
ファイアー・ドッグ(シャイアン族) 「風のささやきを聴け」より引用
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