
「アメリカ・インディアン悲史」
藤永茂著 朝日新聞社より

これと対照的に、インディアンについては、アメリカ人は本能的に、ある「おそれ」
を持ち続けて今日に至っている。それは、自分達の幸福論と本質的に対峙する幸
福論によって生き、しかも自分達よりもあるいは幸せであったかもしれない人達を、
まず力によってみじめな状態に追込み、そして殺してしまったらしいという不安で
あった。ここで幸福論を神といいかえてもよいかもしれぬ。白人たちが物の所有に
よって幸福を求めるとき、彼等はわかち合うことをよろこびとし、白人たちが隣人と
競い、それに優越することによって幸福を求めるとき、彼等は自己にうちかつこと
によって自らと他の自由を確保し、白人たちが大地を凌辱してその富を強奪すると
き、彼等はそれを大いなる母と慕った。インディアン達のあらゆる愚昧さは、白人た
ちの競って利用するところであった。その愚昧さによって白人たちは莫大な利益を
手に入れた。しかし、同時に、そのインディアンの愚昧さのかげに、初々しい精神
の高貴としかいいようのないものを、白人たちはたしかに垣間見たのである。
「アメリカ・インディアン悲史」より