「世界の先住民族 危機にたつ人びと」


「写真集 世界の先住民族 危機にたつ人びと」

アート・ディヴィッドソン著 鈴木清史+中坪央暁訳

明石書店より





この名著から世界各地の先住民族と呼ばれる人びとの魂の叫びが聞こえてくる。

この中にはインディアンを始めとして、アマゾン、アンデス、チベット、アイヌ、サラ

ワク、インドネシア、アボリジニ、ブッシュマン、トゥアレグなど数多くの先住民族が

おり、今日どのような現実に置かれているのかを現地の先住民族の声と共に訴え

ている。その多くは文明人といわれる大地を憎む人々の野蛮さや傲慢さにより、絶

滅寸前に追い込まれている。一説によると現在でも世界各地で毎年約25万人の

先住民の方たちが殺されており、先住民独自の言葉の多くが次の世代には消えて

なくなっていくことだろう。そしてそれは私たち文明人の未来をも奪うことになってし

まうことを意味していることに気づきさえしない。先住民族は物質文明の流れに乗

れず溺れていった悲運の民族などではなく、私たちの未来を語る上での試金石な

のである。このかけがえのない先住民族の方たちの視点を失うこと、奪い取ること

こそ、自らのそして未来の世界・子孫への殺戮そのものなのであり、この世界を

破滅へと導いていくものだろう。しかしこの私たちに何が出来るというのだろう。

余りにも複雑化してしまった現代文明の中で、そしてその歯車の一部として動い

ている自分自身を振り返るとき、その無力感に囚われてしまうのも事実だ。ただ、

次の世代を荷う子どもたちに先住民族の方たちの視点・魂が宿ることを願ってい

きたい。たとえどのような世界が待ち受けようとも、このような魂と共に生きる子ど

もたちが、あるべき姿をした新しい世界を創造してゆくに違いない。

(K.K)


 




本書を以下の人びとに捧げる。


民族と土地と生活を守るために、闘いながら死んでいった先住民族の人たちに。

世界中の子どもたちに。

世界の人びとが自分たちの生活様式で生きていくことができることを知ってもらうために。

(本書より・アート・デイヴィッドソン)


 
 


本書 まえがき より引用

リゴベルタ・メンチュウ(1993年ノーベル平和賞受賞者)の言葉


世界中のすべての先住民族の自由、それこそがわたしの望むものである。

自由は何か素晴らしいものから生まれたものではなくて、みじめさや辛苦

から生まれたものだ。私の民族が体験している貧困、インディオとして目の

当たりにし、そして実際経験してきた栄養不足、身体で感じてきた搾取、そ

してわたしたちが何者であるかをいっさい考慮しないで神聖な儀式を一方

的に禁じた抑圧。これらによって、自由は一層求められるようになってい

る。21世紀を目前にして、自分たちの権利の尊重、民族としての自覚と

希望を獲得しようとする先住民族の奮闘はより活発化しており、同時にま

すます拡大している。抑圧や差別を浸透させようとしているいかなる集団

も、もはやそれを否定も隠蔽もできなくなっている。自らの権利と歴史を

守るために過去500年間抵抗を続けてきた人びとには、新しい輝ける

1000年が待ちかまえている。われわれは、自分たちのルーツをそのた

めだけではなく、それらが栄え実を結ぶようになるために守ってきたので

ある。経済的、社会的、文化的、市民的そして政治的権利の尊重を獲得

する闘いにおいて、われわれは象徴的な認識や、浅薄な譲歩では納得し

ない。われわれの目的は、これらすべての権利が文字通り実効性をもつ

ようにすることである。世界の重大で根深い問題は、先住民の全面的な

参加がなければ解決することはない。同じように、先住民以外の人びと

の協力も不可欠である。先住民は過去の神話、生きる屍と多くの人が

言ってきた。しかし、先住民の人びとの社会は過去の遺物でも神話でも

ない。それは生命にあふれているし、進むべき道も将来もある。そして

世界に寄与し得る知恵と豊かさもある。われわれは一歩踏み出て、語

りかける。「ほら、ここにいるではないですか。われわれは、ちゃんと生

活していますよ」と。


 


本書・はじめにより(アート・ディヴィッドソン)


本書は、諸文化のあいだに横たわる、深遠な溝を越えようとする試みである。

先住民族にかかわる問題を真に理解するにつれ、われわれは先住民族とそう

でない人びとの運命は関連し合っていることに気づくであろう。われわれは生存

のための挑戦に直面している。これらの問題の一つは、自然との均衡ある生活

を可能ならしめる生活様式の必要性である。わたしたちの資源消費が雨林や

砂漠にまでおよぶにつれ、環境と均衡しながら、わずかばかり残っている文化

を破壊している。これは恐ろしい悲劇である。かららの文化が消え去ってしまう

のは、われわれにとっても損失である。地球の民として人類が相互依存してい

ることをはっきりと理解しようとするためには、先進国に住むわれわれは、先住

民族がどのような人びとであるのか、かれらの直面する問題が何なのかをはっ

きりと認識し、かれらの知恵と知識を学ぶ必要がある。本書は、生存を図るか

れらの闘いや政治的な駆け引きを分析しようとはしていない。しかし、かれらの

おかれた現状や、土地や将来を決定する権利を変換しなければならない緊急

性は十分含んでいる。本書で述べられている以外にも加えるべき人びとや文化

があった。すべての発言、それぞれの人びとの経験のすべては同じように強烈

で急を要するからである。どこで生活していようと、わたしたちの生活は、先住民

族の生活と結びついている。わたしたちがどのような肌の色をしていようと、何語

を話していようと、かれらの将来に何らかの影響を与えている。先住民族の生存

危機へのわたしたちの対応いかんによって、人類の多様性が消滅するのか、あ

るいは地球上の人びとがついに共存できるようになれるのかがかかっている。

そして、われわれの生きた、この時代が記憶から消え去ることはないだろう。


 


目次

まえがき

はじめに


T 北アメリカ

イシの残したもの

ユピック

グウィチン

クリー

アメリカ合衆国先住民


U ラテン・アメリカ

中央アメリカ

アンデス

アマゾン


V アフリカ

トゥアレグ

マサイとブッシュマン

マダガスカル


W ヨーロッパ アジア

ロシアの“小さな民族”

チベットと中国

アイヌ

サラワク

南東アジア


X 太平洋

太平洋諸島

イゴロット

インドネシア

マオリ

アボリジニ


共存をめざして

先住民族の支援組織

謝辞

訳者あとがき








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