NHKスペシャル「ヤノマミ 奥アマゾン・原初の森に生きる 劇場版 DVD」

国分拓 監督 NHK


 



国分拓著「ヤノマミ」を読み終わったあとの違和感、それはこの文献の感想にも書いた

ことだが、このDVDを見てそれが何だったのか次第にはっきりしてきたのを感じる。3度

の訪問による150日間の長期取材でも心を開かないヤノマミの人と、長倉洋界氏の写真

や文献に登場するヤノマミの人とのまるで別世界とも感じる差。それはこのDVDの最初

に登場するヤノマミの男性が取材陣に対して「お前たちは味方なのか、敵なのか、敵だ

ったら殺すぞ」と詰め寄る場面、そうこの場面に私が感じた違和感の全てがあるのかも

しれない。確かに今までヤノマミに対して何の知識もない人にとっては、生まれたばかり

の胎児を人間として迎えるか、殺して精霊として天に返すかの決断をする女性の姿や、

先進国顔負けの結婚前のおおらかな性など衝撃を受ける内容であり、長倉洋海氏の

文献や写真でもそれは出てこない。世界各地に住む先住民族の精神文化の中でも特異

な位置にヤノマミは立っているのだろう。ただ、フィールドワークという点でこの作品を見

ると最初の交渉から失敗であったと思う。「ブラジル政府、および部族の長老との10年

近い交渉の末」と書いてあるが、長倉洋海氏は何の連絡もせず、ただ先住民活動家

アユトン・クレナックと共に訪問しただけで彼らの警戒心を解き彼らの素顔を撮影できた

のである。10年近くも交渉しながらヤノマミの男性に「敵だったら殺すぞ」と詰め寄られ

ること自体、取材陣の認識の甘さを指摘されても仕方ないのだろう。これと同じようなこ

とがNHKの放送大学の「先住民講座」の中でも見られた。司会のスチュアート・ヘンリ氏

がイヌイットなど先住民族のカテゴリー分け必要だと指摘したのに対し、若いフィールド

ワークをしている2人の研究者が共に「同じ民族でも一人一人違う」ことを強調されてい

たが、それだったら別に外国まで行かなくても近くのお爺ちゃん、お婆ちゃんの姿を追え

ばいいのである。何故、外国に住む先住民をフィールドワークの対象としているのか、そ

の原点(自分が何故彼らに惹かれたのか)を忘れ、自分の研究対象が唯一無二のもの

だと近視眼的な捉えかたに囚われていることに気づきもしない。横道にそれてしまった

が、NHKの取材陣も10年という準備期間があったのだから、文献なり情報を集め、何を

写し、何を日本の人に伝えたいのか明確な意思を持つべきだったと思う。150日間も一緒

に生活しながら、彼らの警戒心を解けなかったことを猛省すべきであり、この作品が放送

文化基金賞優秀賞受賞したこと自体、滑稽なことに感じられてならない。ただ、多くの人に

このような特異な精神文化を持つ先住民がいることを知らしめた事実だけは認めなくては

いけないのだろう。

2010年8月9日 (K.K)


「ヤノマミ」 ヤノマミ、それは人間という意味だ 国分拓著 NHK出版

「人間が好き」アマゾン先住民からの伝言 写真・文 長倉洋海 福音館書店

「鳥のように、川のように」森の哲人アユトンとの旅 長倉洋海著 徳間書店

「アマゾン、インディオからの伝言」南研子(熱帯森林保護団体代表) ほんの木

「悲しい物語 精霊の国に住む民 ヤノマミ族」
アルナルド・ニスキエル作 エドムンド・ロゴリゲス絵 田所清克・嶋村朋子 編・訳 国際語学社

「アユトン・クレナックの言葉」


 




アマゾンの最奥部で、1万年以上独自の文化・風習を守り続けている人々、ヤノマミ。

ブラジル政府、および部族の長老との10年近い交渉の末、撮影陣は「ワトリキ」(風の地)

と呼ばれる集落に150日間にわたって同居することを許された。集団で狩りを行い、獲物

を全員で分け合う自給自足の暮らし。豊かな実りに感謝をささげる祭り。天の精霊たちと

会話するというシャーマンの姿。大らかな性、そして「人間として迎えるか、精霊として天

に返すか」を母親が決める出産。「生と死」、「聖と俗」、すべてが剥き出しのまま同居する

ヤノマミの生活。その姿をとらえたドキュメンタリー。NHKで2009年に放送した同名番組に

未放送映像を加え再編集した劇場版を収録。

(本DVDより引用)



内容紹介(以下 Amazon より引用)

NHKでの放送直後より多大な反響を巻き起こし、劇場特別公開時には全て満員と
なった問題作にして傑作ドキュメンタリー作品。
待望の劇場版DVDが遂にリリース!特典映像として監督インタビューを収録。

★アマゾンの奥地で1万年以上に渡り独自の文化と風習を守り続ける「ヤノマミ族」
を世界で初めて長期同居取材敢行!
★人間という存在、生と死の意味を深く見つめてゆく、奇跡的な問題提起作品に多く
の人が衝撃と感動を覚えた!
★TVでは放送することができなかったシーンを加えた、劇場特別公開版でDVD
化!

≪放送文化基金賞優秀賞受賞作品≫


アマゾンの最深部に1万年以上、独自の文化・風習を守り続けている部族がいる。
欧米人に“最後の石器人”と呼ばれているヤノマミ族だ。
現在、ヤノマミ族は2万人。
40~200人で一つの集団を作り、ブラジルとベネズエラにまたがる広大なジャングル
に分散して暮らしている。
撮影陣はその一つ、ワトリキ(風の地)と呼ばれる集落に150日間同居し、彼らの言
葉を覚え、彼らから分けてもらった食料を主に食べながら撮影を続けた。
森の中、女だけの出産、胎児の胎盤を森に吊るす儀礼、2ヶ月以上続く祝祭、森の精
霊が憑依し集団トランス状態で行われるシャーマニズム、集団でのサル狩り、深夜突
然始まる男女の踊り、大らかな性、白蟻に食させることで天上に送る埋葬…。
そこには、私たちの内なる記憶が呼び覚まされるような世界があった。
笑みを絶やさず、全てが共有で、好きなときに眠り、腹が減ったら狩りに行く。
そんな原初の暮らしの中で、人間を深く見つめてゆく。
(※ブラジル政府、および部族の長老7名との10年近い交渉の末、TV局としては初
めて長期の同居が許されたものです。)

【特典映像】
監督インタビュー:「ヤノマミ」ディレクター・国分 拓
◎撮影中の食事 ◎機材や電源 ◎ヤノマミとの距離 ◎ナプとヤノマミ
◎撮影中の「後ろめたさ」 ◎死者を弔う ◎ヤノマミと「文明」
◎ヤノマミ同士の争い ◎放送にあたって ◎上映を終えて
(2010年2月11日新宿バルト9での上映後の「ティーチ・イン」より)

■コメント by 国分 拓(NHKディレクター)■
[NHK-BS ドキュメンタリー・コレクション HPより]
街中で死骸を見かける事が少なくなった。
食べる者と殺す者とが別々なせいか、肉を食べる時に心が痛むこともない。
しかし、ヤノマミの世界は違う。自分で奪う命は自分で殺し、感謝を捧げた後に土に
還す。
今日動物を捌いた場所で、明日女が命を産み落とす事もある。
死は身近にあって、いつも生を支えていた。
それは、余りにもリアルだったから、何度も打ちのめされた。
私たちは死を想うしかなかった。
そして死を想うことは生の輝きと同義なのだと言い聞かせて、番組を作った。
力及ばず、正視できない人がいたとすれば、それは、私たちの責任だ。
彼らは<野蛮>でも<凶暴>でもない。
よく笑い、怒り、遊び、泣く。
まさに、人間そのもの、だった。
(劇場版ではTV版にはない映像、シーンも使い再編集しています。人間、男と女、
収穫と祝祭、生と死、森の摂理…。様々なことを感じる作品になっていると思います
ので、ぜひご覧ください)

2010年作品 本編120分+特典映像22分収録
片面2層/カラー/16:9/5.1chステレオ/ドルビーデジタル


 






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