「先住民」

コロンブスと闘う人びとの歴史と現在

上村英明著 解放出版社 より引用









本書・あとがき 上村英明 より引用


1993年は、国連の制定した「国際先住民年」に当たり、アイヌ民族を含め、

先住民族の権利回復運動が大きな飛躍をとげる歴史的な「チャンス」と言え

る。しかし残念ながら、この日本では、「国際先住民年」に対する関心は市民

から行政まで極めて低い。解放出版社から、先住民とは、どういう人びとで、

その人権がどういう状況に置かれているのかという視点から、本を執筆しな

いかと連絡を受けた時には、正直に言うと、躊躇してしまった。先住民族は

北極圏から南太平洋までの世界各地で、それぞれの生活を営んでいる。

先住民族としての共通の運命を背負っているが、その歴史的背景、そして、

文化や価値の独自性に至っては、実に千差万別であるからだ。そもそも、

先住民族の歴史と現状、権利を一冊の本にすることなど、それこそ、無謀

な冒険以外のなにものでもない。しかし、例え「冒険」であるにしても、誰か

がやならければならないと、しばらくして、思い直すようになった。それは、

第一に、日本における先住民族の権利問題への関心があまりに低く、ある

種の総括的な入門書が、どうしても必要であると痛感することが何度かあっ

たからである。第二に、国際的な先住民族への関心の高まりに影響され

て、先住民族の権利問題が紹介されるようにはなってはきたが、そうした

紹介も、上澄みだけをすくうことが多く、基本的な問題や、その歴史がすっ

ぽり抜け落ちている場合が少なくないからである。先住民族との共生は、

言語や風俗、伝承、行事それだけを取り出し、記録したり、保存したりして

達成できると思われた時代から、はるかかなたに進んでしまった。現在で

は、民族自決権や土地権、資源権、環境権が世界各地で議論されてお

り、その土俵の上で初めて、文化や伝統の維持、発展の問題も検討され

るという時代になったのである。こうした状況を理解してもらうためには、

誰かが先住民族の置かれている世界的状況とその歴史を包括する本を

書くという「冒険」を行うことしかなかった。


 


目次

第1章 「先住民族」を誕生させたコロンブス

1 「領土」獲得の野望

2 コロンブスの住民観・・・・民族差別の思想

3 ヨーロッパ人の植民開始

4 コロンブス「大航海」の目的

5 「国際先住民年」と「新大陸発見500周年」の対決

6 「ジパンゴ」を求めつづけたコロンブス


第2章 先住民族の歴史と現在

1 北米先住民族

2 中南米先住民族

3 サーミ

4 オーストラリア先住民族

5 アイヌ

6 先住民族の人口を推計する


第3章 「先住民族」の定義

1 「民族」とは何か

2 先住「民族」に対する各国の定義

3 「先住」とはどのような意味を持つか


第4章 先住民族と国際社会の対応

1 国際連盟設立と「民族自決」

2 国際連合の成立と人権・・・・「青海説」の登場

3 「少数民族(民族的少数者)」から「先住民」へ

4 先住民族の60年代

5 先住民族の権利宣言の時代


第5章 進む権利回復運動を見る

1 祝賀される「侵略」や征服

2 政治的権利達成のさまざまな可能性

3 先住民族の独自な自然観に基づく多様な経済的権利

4 伝統を維持、発展させる社会的・文化的権利


第6章 地球環境問題と先住民族

1 先住民族と核開発

2 先住民族に襲いかかる地球環境問題

3 先住民族の権利と西欧民主主義


第7章 先住民族とメディア文化論

1 先住民族に関する四本の映画

2 先住民族を描くマス・メディアと差別表現

3 再び、「コロンブス」を考える


参考文献

あとがき








アメリカ・インディアン(アメリカ先住民)に関する文献

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天空の果実

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