
「アッシジへ行く」
高山辰雄墨画集
講談社 より引用


スイス・フランス・イタリアへの旅を素朴な墨画と散文で綴るものだが、
写真とは異なった墨画独特の空間が広がっている。
(K.K)

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本書より引用
先生はどのようにしてこの道を通られたのだろうか。寺院の大きい列柱の横を 車で登りながら、ふと思ったのでした。食後八時過ぎ、フランチェスコ寺院へ散 歩しました。広場の両わきにある回廊の暗いあかりの下の石だたみをのぼって 正面に出ました。照明で黒い夜空にクッキリと黄土の色で浮かんでいます。左 肩に三日の月が星をつれて出ていました。風もなく、暑くも寒くもない夜でした。 寺院の隣にある宿スバシオに帰り、眠るに惜しく広間に出て腰かける。二十畳 ぐらいの部屋は賑わっています。テレビを見ながら土地の人が幾人かいました。 テレビは、日本で大分前に見たレオナルド・ダ・ビンチを白黒でやっていました。 次の日は朝から、寺の数々の壁画を見ました。フランチェスコやクララがこの丘 や野を歩いた頃、八百年前はどんなところだったのだろうか。聖母の絵や、 フランチェスコ伝の絵などくわしく知りたい気になります。こまかい雨が時々落ち てきて、アッシジはいっそう灰色のなかに沈んでゆきました。山の上から遠く、 ウンブリアの野を見渡す。点在する小さな町、古い寺院、歴史の厚みと美しい 自然。北イタリアのアッシジに、私は立っていました。
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