
「アシハヤ」
イロコイ・インディアンに残された物語
北山耕平 再話 菊地慶短 作画 星雲社より引用
誰にでも大人になる時が訪れます。生まれ育った家を離れ、両親の加護を離れて、
自分がひとりの人間として生きていけることを、成長していけることを、自分の力で
証明してみせる時が訪れるはずです。おそらくこれは年齢とはあまり関係がありま
せん。十代でその時を迎える人もいるし、二十代で迎える人もいるでしょう。けっ
きょく大人になることをミスしたまま歳を重ねることだって、あらゆる儀式が価値を
喪失した現代では珍しいことではありません。大人になれなかった大人たちがたく
さんいることも事実です。世界の文化のなかには、いまでも若者が大人になるた
めの通過儀礼を持っているところがあります。それは新しく大人になる人間に、大
人になるとはどういうことなのか、大人の役割とはなんなのかを教える儀式です。
私は「日本人」が「アメリカ先住民」と民俗学的に近い位置にあることを肌で確認し
て以来、長い間、北アメリカ大陸の先住民の間に残っていたそうした儀式に興味
を持って調べてきました。代表的なものにラコタ族(スー族)に残されているヴィ
ジョン・クケストがあります。山の頂でひとりぼっちで、飲まず食わずで4日4晩を
過ごす儀式ですが、同様のシンボリックな通過儀礼が他の部族でもさまざまに姿
を変えて伝承されています。そして大人の世界に足を踏み入れる儀式において、
その儀式の意味を伝える教育的な働きをするものが、メディスン・ストーリーとか
ティーチング・ストーリーと言われる「お話」でした。お話は、なにも娯楽のためだ
けあるのではありません。本当に大切なことを伝えるために物語りは人間の歴史
を通じて使われてきました。そこで私は、ネイティブ・アメリカンに伝えられてきた
「大人になる時の教えの話」「大人になるための教えの話」を、できるだけたくさん
の日本列島に生を受けた若者たちと共有したいものだ、と考えました。なぜなら、
日本人はルーツを喪失した「インディアン」であって、なおかつ日本では大人にな
るための儀式も物語もまったく残されていないからです。文字に印された歴史が
はじまって・・・・人間としての成長を疎外する便利なシステムが完成して・・・・
あまりに長い年月が経ってしまったために、人びとの間に残されていたそうした
教えのある物語は記憶の彼方に消されてしまったようです。私はこのシリーズ
を、日本人としてではなく、地球のうえに生きるひとりの人間として、自分を知り
たいと思い、大人になることはどういうことかを考えはじめた君に、贈ります。
北山耕平
「ネイティブ・マインド」、「ローリング・サンダー」、「インディアン魂(レイム・ディア)」、
「シャイアン・インディアン 祈り」、「虹の戦士」など数多くのインディアンに関する文献
を書いておられる北山耕平さんと奥様によるホームページです。このページにはホピ族
の指導者であったダン・カチョンバの「生命の始まりから浄化の日まで ホピ物語」全文
が掲載されています。また「セイクリッド・ウエスト/ SACRED WEST」を通してインディアン
並びにそれを取り囲む世界を知ることが出来るでしょう。他に奥様によるアメリカの砂漠
と太平洋のロタ島の旅行記も興味深いものとなっています。私自身北山耕平さんから、
「リトル・トリー」の真実をはじめ、多くのことを教えていただいたことを感謝しています。
北山さんの最近の文献として、「アシハヤ」、「星の少年」、「鷲と少年」、「ますらお」、
「アメリカ・インディアンに学ぶ子育ての原点」などがあります。
