「小さな国の大いなる知恵」

ポーラ・アンダーウッド/星川淳 共著

翔泳社 より









大いなる平和の樹・・・・イロコイ連邦のシンボル


いまから1000年ほど前にイロコイ五部族(のちに六部族)連邦が結成されたとき、連邦の

末永き存続を象徴するために一本の常緑樹(ホワイトパインという五葉松の一種)が選ばれ

た。父の説明によれば、たくさんの松葉は各部族内の大勢の個人を表わす。松葉のまとま

りは家族、それを支える小枝は氏族(クラン)、それらが大枝に結束したものが部族全体で

ある。大いなる樹の幹は連邦を表わし、私たちを育む生命の二側面である大地と大空の

合一を象徴する。樹がなければ個々の松葉は生きていけないし、また逆に個々の松葉が

なければ樹が死んでしまう。ホワイトパインの常緑たるゆえんは、松葉が永遠に生き続け

るからではなく、三年間枯れないからだという。一族にとって、これは祖父母と両親の三世

代を表わす。先立つ世代に生えた針状葉は樹から落ち、根の栄養分になった。まだ生ま

れぬ未来の世代は新芽で表わされる。そうして、この<大いなる平和の樹>は生き続け

てきた。この樹から四つの方角を象徴する四本の<平和の白い根>が伸び広がった。

五部族はそれぞれ根の下に戦闘用まさかりを埋め、互いに二度と戦をしかけないことを

誓った。一族はこの樹のてっぺんに鷲をとまらせたが、それは空高く舞い上がる鷲が、

変化を遠くから見通して一族に教え、互いに相談して適切な行動をとる時間を与えてくれ

るからだ。主な決定はすべて、七世代後への影響まで考えて下された。いま行なう決定

が孫のまた孫たちにどんな影響をおよぼすだろう?そして、そのまた子どもたちには?

この生きた常緑樹は、イロコイ連邦組織を象徴していた。それは<亀の島>(アメリカ

先住民が北米大陸を呼ぶ名)の東海岸ぞいに存在したいくつかの民主的な先住民同盟

のうち、もっとも高度な発展をとげていた。イロコイ連邦に通じていたベンジャミン・フラ

ンクリンは、それを手本に1754年のオルバニー連合案を作ったとされる。この案が

ニューヨーク植民地(のち州)憲法の下地となり、十三の植民地が団結する合衆国の

連合規約につながっていった。連合規約の多くの要素が現在の合衆国憲法に取り入

れられ、イロコイの平和の法と私たちの憲法とを一本の糸でとぎれなく結びつけている

のだ。・・・・・・・・本書第一部 フランクリンとスケナンドアより ポーラ・アンダーウッド







白いカヌーに乗って


遠い昔、人びとが創造主の定めた正しい道を踏み外して、同族相食む暗黒時代が訪れた。

正しい道とは、動植物や水など、人間に授けられた地球の贈り物を大切にし、未来の世代が

同じ恵みを享受できるように守っていくことだった。そんな乱世に、平和のメッセージを広める

一人の使者が現われた。その名は文字どおり平和を築く人、「ピースメーカー」を呼び習わさ

れる。イロコイ語の正式名もあるが、むやみに口にしたり明かしたりすることは禁じられてい

るという。一説では、いつかまた世界が闇に閉ざされたとき、その名を呼べばピースメーカー

が再来すると伝えられ、それがこの二〇世紀末だと考える人もいる。ピースメーカーはオンタ

リオ湖の対岸(北のカナダ側)に住むヒューロン族の生まれで、未婚の貞節な娘が処女のま

ま身篭ったといわれる。娘の不貞を疑った母親が、生まれた赤ん坊を三度殺そうとしたけれ

ど果たせず、ただ者ではないことを認めて二人で大切に育てた。みるみる美しい若者に成長

したピースメーカーは、自分には成しとげるべき使命があると言い残してオンタリオ湖を渡る。

そのとき乗ったカヌーは、みずから白い石を切り出して作ったもので、石ではなく氷だったとい

う説もある。当時、イロコイ人とヒューロン人とは犬猿の仲だったため、向こう岸から不審な者

が来ればたちまち殺された。しかし、珍しい石のカヌーが水に浮くことに驚いた南岸の人びと

は、何者かあらためようと族長や長老たちのもとへ連れていく。こうして、仇敵の土地で平和

を説くきっかけが生まれたのだ。そこで、ピースメーカーは語りかけた。人間はだれでも<グッ

ドマインド>をもっていて、それを使えば人間どうしも、また地球上の生きとし生けるものとも

平和に共存できるし、争いも暴力ではなく話し合いで解決できる。だから、血で血を洗う殺し

合いはもうやめよう、と。彼はまた、九つの氏族を定めて乱婚を避けること、そして相続は母

系で行うことを教えた。家や土地や財産は母から娘へ引き継がれ、子どもはすべて母親の

氏族に属するのである。各氏族は男性のリーダーとして族長を、女性のリーダーとして族母

を選び出し、族長と族母にはそれぞれ補佐役として男女一人ずつの信仰の守り手(Faith 

Keeper)がつく。族長は族母によって選ばれ、族長にふさわしくない言動があれば、族母

はそれを辞めさせることもできる。氏族メンバーの総意で選ばれる族母は、つねに人びとの

意思を汲み上げる大きな責任を負う。族母(クランマザー)の由来は次のように伝えられて

いる。ピースメーカーがオンタリオ湖の南岸に着いて平和行脚をはじめたばかりのころ、セ

ネカ族の土地で峠の宿を営む女将に出会った。そこは東西を結ぶ街道の要所で、彼女は

道ゆく戦士たちを心づくしの食事でもてなすのが自慢だった。しかし乱世のこと、それは争い

の火に油を注ぐ役目も果たし、また彼女自身、ときどき食事に毒を盛っては人殺しに手を染

めることがあったという。そこへ通りかかったピースメーカーの話を聞くと、女将はたちまち

平和の道にめざめ、すっかり改心して最初の支持者となる。ピースメーカーは彼女を「生ま

れ出ずる国の母」を意味するジゴンサセと名づけて讃えた。初代クランマザーの誕生であ

る。いっぽう、族長の由来についてはこんなふうに語られる。当時、オノンダーガ族の有力

者でヒアウェントハという男が、一族の呪術師の恨みを買って妻と娘を次々と殺され、失意

のあまり村を去って東へさすらいの旅に出る。とある湖で水面を覆い尽くすカモの群れを

見たヒアウェントハは、自分の目が悲しみの涙で曇っているのに気づき、もう嘆き悲しむの

はやめようと心に決める。すると不思議、カモたちがいっせいに飛び立ったあと、湖水まで

一滴残らず消えていた。湖底で美しい貝をたくさん見つけたヒアウェントハは、貝殻をビーズ

にして数珠を作り、それまで自分のように悲しみに暮れる人がいたらその数珠で慰めること

を誓う。ちょうどそこへ、ようやくモホーク族の説得を終えて西へ向かうピースメーカーが通

りかかり、二人は新しい平和同盟の建設に力を合わせようと意気投合する。長年の殺し

合いで荒みきった人びとの心は、ピースメーカーの理詰めの説得だけではすっきり晴れな

い場合もあったが、ヒアウェントハの慰めによって笑いをとりもどすことができたのだった。

それ以来、族長たちはヒアウェントハに習ってピースメーカーの精神的右腕として働く使命

が与えられている。・・・・・・・本書第二部 イロコイ連邦を訪ねて 星川淳







イロコイ連邦の公式ホームページ

ポーラ・アンダーウッドのホームページ


同じ著者による、10万年にも渡る一族の叡智の旅と未来の世界への想いを描いた

文献「一万年の旅路」、また真の「学び」とは何かを問いかけた「知恵の三つ編み」

という文献も是非参照してくださればと思います。また星野道夫氏と親交があった

リチャード・ネルソンの「内なる島 ワタリガラスの贈りもの」という文献は訳者が

翻訳されたものです。


魅せられたもの「未来を守る無名の戦士たち」1999.1.30を参照されたし




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