「インディアンに囚われた白人女性の物語」

T.メアリー・ローランソン夫人の捕囚と救済の物語

U.メアリー・ジェミソン夫人の生涯の物語

白井洋子訳 刀水書房 より引用







牧師夫人であったローランソン夫人は約三ヶ月の間、インディアンに

囚われ、多くの肉親を目の前で殺された。そんな中にも女性特有の

強靭な精神力と信仰を持ち開放されるまでの日々を綴ったものであ

る。確かにこの書は一人の白人女性の試練に対して勇敢に立ち向

った記録としては多くの人々に感銘を与えたであろう。しかし、悲し

いことにこの書は長い間に渡ってインディアンの歪められた姿を人

々に植え付けてしまった。何故インディアンがこのような残虐な行為

に走ってしまったのか冷静に良心に基づいて考える誠実さがあった

なら、この自分に降りかかった悲劇の原因を振り返られたであろう。

しかし、この書は神から、教会から次第に離れてゆく当時の白人

社会への警鐘を目的とするものに変質されてゆく。地獄の番犬、

異教徒ども、悪魔、野蛮人などの言葉と対比してクリスチャン、聖書

の素晴らしさが高らかに歌われる。ローランソン夫人と同じように

肉親をインディアンに殺され、囚われの身となったジェミソン夫人

はこのインディアンの残虐な行為が白人の裏切りと虐殺が原因で

あると気づくのである。ジェミソン夫人は言う。「インディアンの人格

的特質は(このように言うのが許されるなら)悪に汚染されていな

いことです。かれらの誠実さは完璧であり、それは周知のことで

す。厳しいほど正直で、騙したり嘘をつくことを軽蔑します。とくに

貞節さを尊び、それを破るのは神を冒涜するに等しいのです。欲望

を制し、感情はおだやかで、どんな問題でもそれが重要な事柄で

あれば自分の意見を礼をつくして率直に述べます」。このような人

間を残虐な行為にまで追いつめていったのは、白人による虐殺と

キリスト教による徹底したインディアンの崇高な精神文化の剥奪

であった。カトリックは第二バチカン公会議よりこの他宗教に対し

ての侵略を間違いであったと認め、大きく変身しようとしている。

しかし、二千年もの長き時間を費やさなければならないもので

あったのだろうか。この気が遠くなる時間の中で、どれだけ多く

の血と涙が流されたのであろうか。ローランソン夫人の言葉に

象徴されている、一神教が持つ他の精神文化に対する戦闘行為

が何故生まれてきたのかを探ることは、未来の地球・人類を語る

上で、そしてキリスト教の未来をも含めて欠かせないものかも知

れない。また常に人間優位のもとに繰り広げられた深刻な環境

破壊を救うものが何処にあるのかを早急に探し出すことは、未

来に対しての私たちに背負わされた責任であると感じる。

(K.K)


 




メアリー・ジェミソン夫人の言葉 本書より引用


そうやってわたしたちは暮らしました。家族のあいだに、またそれぞれの人間関係においても、

妬みや口論、仕返しの争いなどはありませんでした。そういった争いが頻繁になったのは、イン

ディアンの世界に強い酒が持ち込まれて以後のことなのです。白人がインディアンに強い酒を

飲ませ、かれらを文明化してキリスト教徒にしようとする試みは、かれらを悪くする一方でした。

悪徳を増大させ、インディアンの多くの美徳を奪い取り、最終的にはかれらを根絶しようとする

ものです。何人かのインディアンは若いときに家族から引き離されて、インディアンとしての習慣

を身につける以前に<白人>の学校に入れられ、成人になるまでそこに引き留められていまし

たが、その教育効果について、数多くの実例を見てきました。つまりもどってくればみなあらゆ

る点でインディアンの何者でもないということです。インディアンはインディアンであるべきで、ど

んなに<白人の>科学や芸術を教えて文明化したとしても、インディアンとして生きていくでしょ

う。オハイオ川流域でインディアンたちと暮らしていたわたしですが、かつて優しい両親がいた

こと、愛する家族をもっていたことの思い出だけは、深い傷となって心に刻み込まれました。

それ以外には、たとえわたしが幼児のときに捕らわれの身となっていたとしても、満足して暮ら

せたと思います。敵に対する残虐な行為がインディアンへのあらゆる非難を呼んでいたとして

も、その残虐さについてはわたし自身が目撃していますが、かれらが生来友人にたいしては

親切で優しく友好的で、まったく正直な人たちであることは事実ですし、残虐な行為も敵にたい

してのみ、それもかれらの正義感に由来するものなのです。(中略) 酒類が持ち込まれるま

では、平和に暮らすインディアンほど幸せな人間はいなかったでしょう。かれらの生活は限り

なく喜びから成り立っていました。欲しいものはわずかで、すぐに満たされました。心配事は

その日限りで、明日の予測できない不安など、先々の心配に縛られることはありません。もし

戦争がなく平和に暮らせれば、いま野蛮人と呼ばれている人びとも昔の生活にもどれるでしょ

う。インディアンの人格的特質は(このように言うのが許されるのなら)悪に汚染されていない

ことです。かれらの誠実さは完璧であり、それは周知のことです。厳しいほど正直で、騙したり

嘘をつくことを軽蔑します。とくに貞節さを尊び、それを破ることは神を冒涜するに等しいので

す。欲望を制し、感情はおだやかで、どんな問題でもそれが重要な事柄であれば自分の意見

を礼をつくして率直に述べます。このようにインディアン同士が、そして白人の隣人とも、当時

白人は近くに一人も住んでいませんでしたが、革命戦争が始まる少し前までは、おだやかに

平和に暮らしていました。戦争になるとインディアンたちはアメリカの人によって、六部族連合

のチーフや戦士たちといっしょに、ジャーマン平地まで呼ばれて行ったのです。そこではアメ

リカの人たちが、かれらとイギリス国王とのあいだに始まろうとしている戦争に備えて、事前

に、味方と敵とをはっきりさせるための会議を開いたのです。


 
 


目次


訳者まえがき

T メアリー・ローランソン夫人の捕囚と救済の物語

インディアンの襲来

最初の移動・・・・すべてを失って

2度目の移動・・・・荒野への旅立ち

3度目の移動・・・・子どもの死、聖書を手にする

4度目の移動・・・・娘メアリーとの別れ

5度目の移動・・・・神に見放されたイギリス軍

6度目の移動・・・・インディアンに囲まれて

7度目の移動・・・・馬のレバーを食べる

8度目の移動・・・・息子との再会 フィリップ王との会見

9度目の移動・・・・息子の病気

10度目の移動・・・・邪険なあつかい

11度目の移動・・・・くたびれ果てて

12度目の移動・・・・つらい試練

13度目の移動・・・・救済の望みを断たれる

14度目の移動・・・・口やかましいインディアン

15度目の移動・・・・狼のような食欲

16度目の移動・・・・希望の再来

17度目の移動・・・・スプーン一杯のトウモロコシ粥

18度目の移動・・・・子どもから取り上げた一切れ

19度目の移動・・・・フィリップとの再会(身代金の相談 パウワウと戦闘儀式)

20度目の移動・・・・救出の使者ジョン・ホワー氏(神の厳しい教え 「空の空」の悟り)


U メアリー・ジェミソン夫人の生涯の物語

第1章 アメリカへの移住

両親の祖国

アメリカへの移住とメアリーの誕生

ペンシルベニアに落ち着く

捕虜となる予感


第2章 インディアンの捕虜となる

メアリーの教育

捕虜となる

ピット砦への旅

母の最後の言葉

虐殺された家族

スカルプ作りの準備

インディアンの警戒

ピット砦に着く


第3章 インディアンに迎えられる

二人のスクオーに引き取られる

オハイオ川を下る

養子縁組の儀式

インディアンの習慣

わたしの仕事

母語とセネカ語

サイオトでの狩猟の手伝い

姉たちとピット砦へ

自由になれず連れもどされる

捕虜が来る

デラウェア・インディアンとの結婚

はじめての子の誕生と死


第4章 夫といっしょにウィシュトからピット砦に行く

出発時の気持ち

白人女性とインディアン女性の労働の比較

文明の悪影響と酒類の持ち込みなど

川をさかのぼる

ショーニーの残酷さ

ジェニシュオから来た兄

サンダスキーに到着

ジェニシュオまでインディアンの母と友人たちとに迎えられる


第5章 夫の死・再婚

ナイアガラへの行進、イギリス人との戦い

インディアンの母、娘を諭す

夫の死

捕虜への報奨金

老チーフ・ジェミソンを諦める

かろうじての逃亡

再婚 子どもたちの名前


第6章 インディアンの平和、破られる

インディアンたちの平和

平和が尊重されていた頃のインディアンの幸福

アメリカ人との条約

イギリス人使者との約束

同盟を結ぶ

1776年のコウティーガ事件、アメリカ人を挑発する

スタンウィクス砦の戦い


第7章 戦争

サリヴァン将軍、大部隊を率いてカナンデグアに到着

オナイダ戦士の処刑についての事情

ボイド、残酷に処刑される

サリヴァン、ついにジェネシーに進軍

ジェミソン夫人、ガードウに行く

人の良いニグロに助けられる

厳しい冬

モホークへの遠征

コーンプランター、父親との会見


第8章 エビニザー・アレンの生涯

アレン、ガードウに来る

インディアン戦争を止めさせる

インディアンからの逃亡生活

捕えられたケベックに連行される

物資をもってジェネシーにもどる

ロチェスターに製材所を建てる

白人妻と結婚

三人目の妻との結婚、もう一人の妾

土地をもらう

土地を失う


第9章 インディアンとの暮らしを選ぶ

インディアンとの暮らしを選ぶ

グランド川での兄の死

ガードウ保留地を与えられる

ジェミソン夫人の土地について


第10章 二人の息子

家族の幸福な時代

二人の息子、トマスとジョンの仲たがい

ジョン、トマスを殺す

チーフ会議の決定

トマスの生涯

彼の死の原因


第11章 夫ヒオカトゥー

ヒオカトゥーの死

誕生 教育

チェロキー族との戦いに行く

フリーランド砦の戦い

1782年、クローフォード大佐のインディアン征伐遠征

裏切り者ガーティー

戦闘

捕虜にされたクローフォードとナイト軍医

クローフォード、火あぶりにされる

ナイト軍医の幸運な脱出

カントン大佐を捕える

チェロキーに対するヒオカトゥーの恨み


第12章 再燃した悩み事

弟ジェシーに対するジョンの妬み

ジェシー・ジェミソン殺害にまつわる事情

ジェミソン夫人の苦悩

寄る年波


第13章 従兄弟のジョージ・ジェミソン

従兄弟が近隣にいることを知らされる

かれの貧しい生活、かの女の思いやり

土地をだまし取られる

従兄弟を追い出す


第14章 もう一つの災難

不吉な地滑り

スコーキーヒルでの口論

葬式

不吉な夢

犯人の逃走

別れに際してのおじの言葉

ジャック・ドクターに死の宣言

ジャックの自殺


第15章 ジェミソン夫人の帰化と土地所有権

マイカ・ブルックス氏

帰化

トマス・クルート氏

保留地を売却する


第16章 最後に一生を振り返って

自由を失ったことを思い返して

健康を保つために

酒の飲まれ方

ジェミソン夫人の生来の強さ

子どもたち

回想を終えて


インディアン捕虜体験物語に見るアメリカ・・・・解題にかえて 白井洋子

T インディアン捕虜体験物語とは

内容的特徴と現代的背景

インディアンははぜ白人を捕虜としたのか


U 「ローランソン夫人の捕囚と救済の物語」

1676年2月10日(木)と救済の物語

ニューイングランドのインディアン戦争

フィリップ王=メタカムの蜂起

ピューリタンにとっての捕虜生活

「野蛮」とのたたかい

宗教書としての捕虜体験物語


V 「ジェミソン夫人の生涯の物語」

フレンチ・アンド・インディアン戦争

ポンティアック戦争

独立戦争とインディアン

ホワイト・インディアンお出現

セネカ女性の自伝的物語


W 二人の女性の捕虜体験物語とアメリカ社会


原典・参考資料





2013年4月3日、フェイスブック(http://www.facebook.com/aritearu)に投稿した記事です。





「男は女の力を恐れている」



(写真は『アメリカ先住民女性 大地に生きる女たち』から引用しました。)



中東やインドで起きている女性の悲劇を見るにつけ、私はそれを感じてならない。



恐らく太古の時代では多くが母系社会(母方の血筋によって家族や血縁集団を組織する社会制度)で

あり、調和ある共同体をつくるために母系社会は最も基礎となるものだった。



縄文土器に見られる女性像などから、儀式を執り行ったのは主に女性だったのではないかとの説が

あるが、沖縄・奄美のユタ(殆ど女性)を除いて、世界各地のシャーマンは圧倒的に男性が多い。これ

はもともと女性は生まれながらに偉大な神秘が宿っていることを男性自身が認識しており、治癒など

の儀式や部族の指導者(女性の意見だけで決める部族もある)は男性に任せるというのが自然の流

れになってきたのかも知れない。



母系社会の中では性犯罪が起きることは考えられないことであった。例えばアメリカ先住民と白人が

憎み戦っていた時代の証言「インディアンに囚われた白人女性の物語」の中でも、白人男性の捕虜と

は異なり、女性捕虜が如何に大切に扱われてきたかを読むとることができる。



このアメリカ先住民の社会では、女性が男性の荷物を家の外に置くだけで離婚は成立し、その逆は

なかった。



ただ現代のアメリカ先住民社会は、子供を親から無理やり引き離し、言葉・生活習慣・宗教などの

同化政策がなされた影響で、アルコール中毒、自殺、家庭崩壊、貧困が深刻な問題になっているが、

虐待や育児放棄の被害にあった子供たちを母系の集団の中で世話するため、現在でも孤児は存在

しない。



母系社会がいつから父系社会に転換したのか、、定住とそれによる近隣との闘争という説もあるが、

私の中ではまだ答えは見つけられないでいる。しかし肉体的な力による服従が次第に母系社会を

崩壊させ、それが暗黙のうちに様々な宗教に伝統として紛れ込んだのは事実かも知れない。



日本では菅原道真などに象徴される「怨霊」や「祟り」を鎮めるために、迫害者に近い人が神社などを

つくり、祭り上げることで鎮めてきたが、同じように卑弥呼の時代は既に女性の力の封印が始まった

時期だと思う。また中世ヨーロッパにおける「魔女狩り」も、宗教が関わりを持つ以前から民衆の間で

始まった説があるが、女性の力を封印させる側面もあったのだろう。



「男は女の力を恐れている」



無意識の次元にまで下ったこの感情を、あるべき姿へと開放させ、母系社会の意味を改めて問う時代

だと思う。



「アメリカ先住民」に限らず、「聖母マリア」「観音菩薩」の存在は、暗にその意味を私たちに教えている

ような気がしてならない。



☆☆☆☆



「女性が死にたえるまで、部族が征服されることはない。」

(チェロキの言い伝え)



「先住民族女性と白人の女性開放論者のちがいは、白人フェミニスト

たちは権利を主張し、先住民女性は負うべき責任について主張し

ているところだ。このふたつは大きく異なる。わたしたちの責務とは

この世界にあるわたしたちの土地を守ることだ。」

ルネ・セノグルス(Renee Senogles)
レッド・レイク・チペワ(Red Lake Chippewa)



「女は永遠の存在である。男は女から生まれ、そして女へと帰っていく。」

オジブワ族(Ojibwa)の言い伝え



「この星は、われわれがずっと生活してきた家である。

女性はその骨で大地を支えてきた。」

リンダ・ホーガン(Linda Hogan) チカソー(Chichasaw)族 詩人



「女性を愛し、大地は女性なのだと教えられ育ってきた男たちは、大地と

女性を同じものだと考えている。それこそ本当の男なのだ。生命を産む

のは女性である。女性が昔から感じとっていた眼にみえない大きな力と

の関係を男たちが理解し始めるなら、世の中はよりよい方向に変化し

始めるだろう。」

ロレイン・キャノ(Lorraine Canoe) モホークの指導者



☆☆☆☆




 
 


2012年4月20日、フェイスブック(http://www.facebook.com/aritearu)に投稿した記事です。



ダウン症の女流書家【金澤翔子】の活動とパソコン教室日記 より引用



「ことだま」 金澤翔子さん・書 写真は他のサイトより引用



「ことだま」という言葉の響きにずっとひかれていた。



言葉というものは体の中から外の世界へ吹きだされる風、その風に乗ってつむぎだされていく。



昔の人はこの言葉に霊力があると感じてたが、そのように捉える感性を私は忘れてしまってい

るように感じる。



言葉に霊力があるから、決して嘘をついてはいけない。



これはアイヌインディアン世界の先住民族に共通する捉え方だったように思う。



しかし、私から吐き出される言葉から嘘が時どき出てしまう。



相手のことを考えた「いい嘘」もあれば、そうでない「わるい嘘」もある。



金澤翔子さんが書いた「言霊」に接すると、本来の言葉のもつ霊力を感じ、立ち戻らなければ

と感じてしまう。



(K.K)



 







アメリカ・インディアン(アメリカ先住民)に関する文献

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